重工業の気候変動対策:2024年における日本企業の評価は?

World Benchmarking Alliance (WBA)の初となる重工業ベンチマークではアルミニウム、セメント、鉄鋼業界のに渡って、91社もの影響力のある企業が、低炭素移行計画について評価された。この評価結果は2024年4月に公開され、本記事では主要なポイントと日本企業のパフォーマンスについて要約し、分析する。

世界的な非営利団体である World Benchmarking Alliance(WBA)は、SDGsへの貢献度に応じて2000社のベンチマークを実施し、様々な企業の気候変動対策に関する評価を発表している。この評価は、ADEMECDPが企業の低炭素化計画の質を測定するために開発したACT手法に基づくものである。 

WBA重工業ベンチマークは、2022年の世界CO2排出量の18%も占める企業群を評価することに焦点を当てている。これらの企業の包括的な評価は、ACT評価、社会的評価、および「公正な移行」評価(WBA独自の方法論に基づいて実施)を組み合わせ、各企業の低炭素移行における環境的、産業的、社会的側面を総合的にスコアリングする。

今回の重工業ベンチマークには、アルミニウム企業12社、セメント企業34社、および鉄鋼企業45社が含まれ、日本からは5つの企業が評価対象となっています。

 

91社の評価に基づいて、WBAは重工業業界に関する5つの重要なポイントを特定した:

  1. 評価対象企業は、2017年から2022年にかけて、温室効果ガス排出量を年間0.8%しか削減していない。パリ協定の目標である、地球温暖化を+1.5℃に抑えるためには、今後5年間で排出削減量を3倍にする必要がある。
  2. 新規技術への研究開発投資は非常に低い(評価対象企業の1割): 直ちに低炭素技術開発に資金を当てなければ、ネットゼロの達成は難しくなるか、不可能になる
  3. 一部の企業は素晴らしい取り組みを示しており、業界全体で基準の底上げが可能:28%の企業が全事業ユニットを対象とする移行計画を持ち、23%がコスト計算にカーボンプラスを含めている。
  4. 一部の企業は労働者やコミュニティのレジリエンスを促進することで業界の「公正な移行」をリードしているものの、多くの企業が苦戦している:評価対象企業の半分は, WBAが設定した構成な移行指標で0点を獲得した。1位の企業でも指標の50%しか獲得しておらず、同業界は依然改善の余地があることを示している。
  5. 労働条件や人権に関するコミットメントが欠けている: 評価対象企業の55%足らずが授業員の健康と安全にコミットしており、45%足らずが人権を尊重することにコミットしている。2022年には評価対象企業は合計で290万人以上を雇用していた。

このベンチマークで1位を獲得したのはCemex社(メキシコ)で、総合スコアは56.4/100だった。最下位はCemros社(ロシア)、Delong Steel社(中国)、JiuQuan Iron and Steel Group社(中国)で、いずれも総合スコアは0.0/100だった。.

日本企業のほとんどは評価対象企業の上位50%にランクインしているものの、阪和興業だけは72位という低評価になった。以下、各企業の詳しいランク:

(ACTのスコアは3つの指標で構成され、それぞれ20点、A、+が最高得点となる。社会スコアの最高スコアは40だ。)

太平洋セメントはセメント企業の中で上位にランクインしており(34社中10位)、低炭素技術へ研究開発費用の25%を割り当てたことが評価された。しかし、2017年から2022年にかけて排出量を年間0.6%しか削減しておらず、具体的な排出削減目標に関しては低評価だった。また、社会対話や労働者保護に対するコミットメントが欠如していると指摘された。

鉄鋼企業と比較すると、JFEホールディングスは比較的高い順位にランクインしており(45社中10位)、ほぼすべての指標で上位3分の1に入っている。同社は「販売製品のパフォーマンス」モジュールで91社中3位にランクインしており、バリューチェーン全体で排出削減に取り組んでいることが評価された。一方、WBAは同社の排出削減目標が科学的根拠に基づいておらず、スコープ3の排出目標がないと指摘している。また、倫理やジェンダー平等に関する情報開示の改善も求められている。

日本製鉄は鉄鋼企業の中でやや下位にランクインしており(45社中16位)、排出削減のコミットメントに関しては高評価だったが、低炭素移行計画が不明瞭であり、気候政策に反対する業界団体との関与が批判され、「政策関与」モジュールで低評価を受けた。

神戸製鋼は日本製鉄のすぐ下にランクインしており(45社中17位)、人権、労働者の健康、汚職防止に関する取り組みが評価されたが、脱炭素化の取り組みに関するデータが不足していると指摘された。神戸製鋼はパリ協定に沿った目標を支持する政策関与についてほとんど情報を提供しておらず、「政策関与」モジュールで低評価となっている。

総合スコアが低い2.1/100にもかかわらず、阪和興業は鉄鋼企業の中で30位にランクインしており、業界全体が持続可能性に向けて大きな推進力を必要としていることを示している。阪和興業は移行計画、排出削減目標、倫理方針のいずれの情報も開示しておらず、WBAは阪和興業が低炭素ビジネスモデルを目指している証拠がないと指摘しており、ほとんどのパフォーマンスモジュールで情報不足により0.0点を獲得している。

今回のベンチマークで日本のアルミニウム企業は評価されなかった。

  1. より野心的な取り組みを:  すべての日本企業は先導的な計画実現が欠けており、脱炭素化においてリードするための野心が不足している状態だ。すべての調査対象日本企業は、ACT評価で「=」または「-」の見通しを受けており、将来のベンチマークでスコアがさらに低下する可能性がある。
  2. 排出削減努力の加速:WBAは、企業が排出削減努力を促進することを強く推奨している。これには、より野心的な目標の設定、新規技術への投資、およびサプライチェーン全体での排出削減へのコミットメントが含まれる。
  3. 低炭素世界に向けて、政策関与の強化: 日本企業のうち3社は、気候政策に反対する業界団体との関与や政策関与の欠如を指摘されている。日本の重工業企業は、国内外で低炭素政策を支持するリーダーシップを取ることが求められる。
  4. 「公正な移行」をビジネス戦略に統合:  日本企業における「公正な移行」モジュールの最高スコアは1.3/20(日本製鉄およびJFEホールディングス)であり、社会対話の促進、グリーンかつまともな雇用の提供、および労働者の社会的保護に対するコミットメントが欠如している。日本の重工業企業は、持続可能な社会へのコミットメントを開示し、伝えることが求められる。

WBAによる初の重工業ベンチマークは、気候変動対策のために重工業セクター内での変革が急務であることを浮き彫りにした。評価結果は、一部の改善が見られるものの、排出削減のペースがパリ協定の目標を達成するにはほど遠いことを強調している。

日本企業は一部の期待を示しているものの、持続可能性への移行において重要な課題に直面している。日本企業の殆どは評価対象企業の上位半分にランクインしているものの、先導的な計画と実行を示している企業はなく、脱炭素化の取り組みを一層強化する必要性があることは明らかだ。気候変動という存在論的脅威に立ち向かう中、重工業業界は地球規模の気候目標を達成するために根本的な変革を遂げなければならない。

WBAのDecarbonisation and Energy Transformation LeadであるVicky Sins氏がベンチマークのプレスリリースで述べたように、「重工業は急速で公正な移行を達成するための大きな機会を提供しますが、業界が行動を加速しない限り、世界的な脱炭素化目標にとって大きな障害となるでしょう。

日本企業はこの移行を推進する上で重要な役割を果たすことが求められており、持続可能性の向上だけでなく、将来の世代や地球全体の福祉のためにも貢献することが期待されている。


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