EUによる企業のサステナビリティ報告に関する指令の提案「CSRD(案)」に向けた準備ができているか? 

欧州員会(EU)は、グリーンディール公約に基づき、2022年10月に新しい企業のサステナビリティ報告に関する指令(Corporate Sustainability Reporting Directive CSRD)を採択する予定。消費者向けのサステナビリティ情報がさらに提供させようとするCSRDは、既存の非財務情報開示指令( Non-Financial Reporting Directive NFRD 2014)を改定し、その対象企業に対する報告義務を大幅に拡大されるものである。また、新指令では、欧州以外の企業も含め、EUのサステナビリティ報告義務の対象となる企業の数を増加させる。Codoは、この新指令について企業が知っておくべきことをまとめた。 

この新しいルールは何に基づくのか?  

CSRDは2014年に採択された非財務情報開示指令(NFR)に基づく報告ルールでは、既に大企業のESG報告の基本原則を確立するものとして重要なものであった。今回の改定では「ダブルマテリアリティの視点」が導入され、企業は持続可能性の問題が自社にどのような影響を与えるかだけでなく、自社が人々や環境に与える影響についても報告することが義務付けられた。しかし、この枠組みのもとでは、多くの場合、企業が報告する情報は不十分であり、投資家やその他のステークホルダーの意思決定に重要な情報が記載されていなかったことがわかった。 

欧州委員会はCSRDにより、こういった非財務情報開示に関する問題によって生じた説明責任のギャップを埋めることを目的としている。今回、欧州委員会は非財務データに関する共通の報告フレームワークを初めて適用する。 

CSRDは、EUのグリーンディールパッケージの一部である。2015年のパリ協定で定められた目標を達成するためのEUの対応策として、グリーンディールの目的は、2050年までに欧州が気候変動ニュートラルに関する最初の大陸になることである。また、EUのアクションパッケージ「Fit for 55」は、最初のステップである2030年までに純排出量を55%以上削減することを目指している。

この新しいルールの内容とは?  

CSRDは、2014年のNFRD指令の範囲、報告方法、基準、デジタル化について改定を行っている。大企業に対しては、環境権(気候変動、生物多様性)、社会権、人権、ガバナンスなどに関連する持続可能性に関する諸問題について報告が求められることになる。

環境事項については、GHGプロトコル(企業のスコープ1、2、3排出量の開示)を含む報告が行われる予定。また、EUの持続可能な経済活動の分類システムであるEUタクソノミ規則で定められている6つの環境影響基準も必須項目となる。企業は、これら6つの環境影響基準(気候変動の緩和、気候変動への適応、水・海洋資源、資源利用と循環型経済、汚染、生物多様性と生態系)を満たし、いかに環境目標に実質的に貢献することについて開示が求められることになる。  

これらの基準に沿って、自社のビジネスモデルと戦略が以下の事項に適合していることを確認するために、企業が設定した持続可能性目標と科学的根拠に基づく移行計画の開示も求められる。 

  1.  持続可能な経済への移行 
  1. パリ協定に基づく地球温暖化を1.5℃に抑制する目標 
  1. 欧州気候法におけるEUの目標に沿って、2050年までに気候ニュートラル(オーバーシュートなし)を達成すること

この意味で、CSRDの開示は、米国証券取引委員会の次期規則よりも広範なものとなっている。EUの新指令では、目標や進捗状況など、より将来を見据えた企業情報が求められている。また、CSRDには、サステナビリティ報告に対する認証の義務付けや、企業経営報告書の別のものに記載するようと企業に求めることで、情報へのアクセス性を向上される含みもある。最後に、持続可能な投資商品の市場の透明性を高め、グリーンウォッシュを防止するために導入されたサステナブルファイナンス開⽰規則(Sustainable Finance Disclosure Regulation SFDR) に沿った報告が期待されている。

誰が報告の質を担保するのか ?

新規則では、認定された独立監査人または認証機関が報告を認証し、サステナビリティ情報がEUで承認された認証要件に準拠していることを確認する必要がある。欧州以外の企業の報告も、認定された監査人による検証を受けなければならない。

報告の対象企業は?

  • 従業員数250名、売上高4,000万ユーロ、総資産2,000万ユーロである条件のうち、2つ以上を満たす大企業(カテゴリー1)
  • EU域内で1億5千万ユーロの純売上高を上げ、EU域内に少なくとも1つの子会社または支店を持つ非欧州企業   (カテゴリー2)
  • この規則は、EU域内で上場している中小企業にも適用されるが、中小企業は移行期間中は非開示が可能であり、2028年まで指令の適用が免除されることになる。

 CSRDは合計で49,000社を対象にする見込みで、NFRDの11,600対象社より大幅にカバレージとなっている。

ルール適用までのスケジュールは? 

規制の適応は3段階に分けて行われる:

  • 既に非財務報告指令の適用を受けている企業は2024年1月1日から(2025年に報告書発行)
  • 現時点で非財務報告指令の対象ではない大企業は2025年1月1日 (2026年に報告書発行)
  • 上場中小企業、小規模・非複雑信用機関、キャプティブ保険会社は2026年1月1日 から(2027年に報告書発行)

日本企業はどのような影響を受けるのか? 

この指令は、欧州で活動する日本企業に「非欧州企業」または「大企業」の一部として、影響を及ぼすことになる。 

CSRDの下では、非欧州親会社の欧州子会社は、EU域内の他の企業と同じように見なされる。その結果、要件を満たせば、日本親会社のEU子会社がカテゴリー1の大企業に分類される可能性がある。例えば、トヨタの子会社であるトヨタヨーロッパの規模を考えると、このようなケースになる可能性が高い。 

日本親会社がカテゴリー1の大企業に該当しない場合でも、EU域内に少なくとも1つの子会社・支店があり、売上高が1億5千万ユーロ以上という条件を満たせば、カテゴリー2に含まれる可能性はある。

さらに、CSRDでは、親会社がグループ全体の連結ベースで報告することを条件に、子会社の報告の免除が許される。

また、日本の銀行や投資家は、EU域内の機関投資家にしか販売できないような小口債を発行したとしても、基準に合致していれば、新指令の対象となる。この適用範囲の拡大について、米国の大手銀行の間では、アジアの顧客が一つの債券をEUで上場する場合、その事業全体について何ページもの監査済み情報を提供しなければならなくなるという懸念があり、すでに議論が起こっている

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