この投資、危ないかも⁈ 「カーボンロックイン」とは?見分け方は?

気候変動の解決策を検討する際、現在排出されているGHG排出量に焦点を当てがちである。例えば、温室効果ガスインベントリやGHG算定は、これまでのGHG排出量の把握に特化している。しかし、既存のインフラ、政策、およびコミットメントによって、将来の排出量はすでに「ロックイン」されているのだ。これらのカーボンロックインを理解することは、気候変動対策を効果的行うために大変重要である。では、カーボンロックインとは具体的にどのような概念であり、なぜ注意を払うべきなのだろうか?  

カーボンロックインの概念は、気候緩和に関する逆説と強く結びついている。単純に言えば、私たちは問題を知っていて、解決策も持っているが、その解決策を使用しないということである。「気候変動が重大な問題」であることは広く合意がなされている。また、低炭素でコストパフォーマンスの高い技術も存在している。それでも、これらの技術はしばしば研究所で停滞し、小規模な試験プロジェクトでしか活用されないことがある。なぜ、これらの技術は普及しないのか?その理由の一つが「カーボンロックイン」である。

カーボンロックインとは、主に発電所、工場、建物、交通システムといったインフラへの長期投資による将来の温室効果ガス(GHG)排出量を指している。これらのインフラは一度建設されると数十年にわたり稼働し続け、大幅な更新工事が行われない限りGHGを排出し続ける。

例えば、今年新たに建設された石炭火力発電所は、今後40〜50年にわたり稼働することになるだろう。この期間中、気候政策に関わらず稼働している限りCO2を排出し続けるのだ。これらの排出量は、すでに存在する、または建設中のインフラに結びついているため「ロックインされている」とみなされる。

カーボンロックインは3つの異なるタイプを区別することが重要だ。「制度的ロックイン」は、排出活動の継続を促進する国家および地方の規制や政策によって推進される。「インフラ/技術的ロックイン」は、インフラや技術システムの寿命が、その継続的な開発と使用から一定の排出量を継続する状況である。最後に、「行動的ロックイン」は、文化や個人の行動を通じて生成される排出である。これら3つのタイプは相互に作用し、結びついている。例えば、数十年にわたる自動車優先の政策は、地域のインフラや、個人の生活習慣が車に依存するようになったことを意味する。これは、脱炭素化を検討にするにあたって、別の交通手段への切り替えを促す場合、政策・制度、地域のインフラ・技術、人々の行動・習慣に可能な限り多面的に対応可能であるべきだと言い換えることができる。全体を見据えた解決策がなければ、その施策は失敗する可能性が高い。

カーボンロックイン自体は新しい概念ではない。この用語は、政策立案と実際のグリーン技術活用との遅れを説明するにあたって20年以上も前から研究論文で使用されてきた。しかし、カーボンロックインの問題は、残りの「カーボンバジェット」を考慮することで新たな視点を持つ。カーボンバジェットとは、排出可能な残りのCO2量を意味する。

確認しよう!残りのカーボンバジェットと1.5度に気温上昇を収めるための可能性


ClimateChangeTracker.orgによると、現在の排出量を維持した場合、1.5度目標を達成するには、今後12年以内にカーボンバジェットは使い果たされてしまう。つまり、カーボンロックインは早期に解消しなければならない危機的な状況であるといえる。特に新興国にとっては、化石燃料への依存が大きく、クリーンエネルギーへの移行に必要なリソースも限られているため、さらなる課題となっている。

EU CSRD(企業サステナビリティ報告指令)において、欧州で事業を展開する企業の中で一定の基準を満たすものは、EUサステナビリティ報告基準(ESRS)に基づいて報告することが求められている。これには、企業の主要資産や製品から生じる可能性のあるカーボンロックインの定性的評価の開示が含まれている。この評価は、これらの排出量が企業の排出削減目標の達成を妨げる可能性があるか、そしてそのような高排出資産をどのように管理するかを説明しなければならないのである。

残念ながら、カーボンロックインを開示している企業はほとんど見つからないのが現状である。
EU CSRDの枠組みが公式に2024年1月1日から始まったため、ESRSに準拠した最初の報告は2025年に発表される予定だ。フランス証券取引委員会のAutorité des Marchés Financiersの調査(仏語のみ)によると、調査対象の企業のうち、カーボンロックインに言及していたのはわずか1社だった。いくつかの企業は、計算方法の不確実性や、カーボンロックインを中立的に評価する共通の枠組みやガイドラインがないことを理由に、これらの排出量を報告から意図的に除外していると述べている。

英国政府は、地方および国家の意思決定者の政策がカーボンロックインを引き起こすリスクがあるか確認するためのガイド(英語)を提供している。このガイドに基づき、企業が新しい投資を検討する際に考慮すべき6つのポイントをCodoがまとめた。
(下記のチェックリストで該当項目が多ければ、カーボンロックインのリスクが高くなりやすいことを意味する。):

  1. 高額な初期投資: 初期投資額は高額だが、運用コストは低く、相対的な費用は安く収まる(例: 建設に多額の資本が必要だが、運用コストが低いため石炭火力発電所の建設を継続)
  2. 代替利用の欠如: 投資によって生み出される資産の代替利用が限られている(例: 化石燃料用に設計された天然ガスや石油のパイプラインは新たな低炭素エネルギーの輸送には活用が困難)
  3. 新規投資が巨額になる:投資した資産を低炭素化するには、新たな巨額投資が必要になる可能性がある(例: 農業機械の多くはディーゼル燃料に依存しており、電気またはバイオ燃料の移行は巨額の投資が必要)
  4. 規制への脆弱性: 投資先セクターは国際的な気候規制や国境調整に対して脆弱になりうる(例: 使い捨てプラスチックの生産施設は、生産規制の対象になりやすく、投資回収のため規制開始までに過度な生産を行うことが想定される)
  5.  既得権益: 投資先セクターは、既得権益が絡み変化を起こしにくい可能性が高い(例: 化石燃料に大きく依存するサプライチェーンでは、自社のアクションだけでは障壁が多く、サプライチェーン上の各社の足並みをそろえないと脱炭素対策は進まない可能性が高い)
  6. 雇用の集中リスク: 限定された地域で大量雇用を行い、市場が変化した場合に多くの失業者が発生する可能性がある(例: 地方で新たな工場を開設し基盤産業となったが、市場の変化で当該工場を閉鎖、多くの失業者が発生)

カーボンロックインは、政策、インフラ、個人の行動に深く関連しているため、気候変動対策において重大な観点だといえる。現時点では、カーボンロックインに関する企業の報告は限られているが、EU CSRDのような新しい規制により、透明性が求められるなか今後の開示が期待される。また、重要なのは、カーボンロックインに対する関心がヨーロッパ以外にも広がりつつあることだ。世界的にも気候変動に関連する情報開示の透明性が求められ、開示範囲の拡大が進む中、EU CSRDのような基準での開示が今後世界的に広まるだろう。その波は日本企業にももれなくやってくる。
カーボンロックインおよび気候変動対策に積極的に取り組みたい企業にとっては、カーボンロックインを評価するための特定の指標も含まれている移行評価ツールACT(Assessing low-Carbon Transition)が有効だろう。



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