CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯蓄)で脱炭素は実現できるのか?



CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)は、二酸化炭素(CO₂)の排出源(発電所、産業施設、その他の主要な排出者)でCO₂を回収し、CO₂を再利用するか、大気中に放出しないように貯留するためのさまざまな技術を包含する。CO₂回収の様々な研究や功績は何十年も前から存在してきたが、パリ協定の下で設定された気候変動目標の達成に向けて、CCUSは再び注目を集めている。本稿ではまず、CCUSについて解説し、次に、CCUSのいくつかの世界的なケーススタディを取り上げながら、当技術の進化と課題を説明する。そして最後に、日本におけるCCUSの現状について取り上げる。

CCUSとは何か?

CCUSは大きく2つのコアコンセプトから成り立つ。一つ目は、CO₂を地下に永久的に貯留するCCS(Carbon Capture and Storage / 二酸化炭素回収・貯蓄)、二つ目は、回収したCO₂を製品やプロセスで活用するCCU(Carbon Capture and Utilization / 二酸化炭素回収・利用)である。CCUSは、セメントや鉄鋼、化学など電化による脱炭素化が難しいセクターで、CO₂排出が大気に達する前に回収することで、温室効果ガスを大幅に削減することが望める。また、回収したCO₂は、枯渇した油田・ガス田や塩水帯水層に注入して貯留するほか、燃料や化学物質、建材などに転換することも可能である。一方で、CCUSだけで全排出量をゼロにすることはできないため、再生可能エネルギーの普及や電化など、他の脱炭素技術と組み合わせて活用することが重要とされている。

CO₂を回収するというアイデア自体は新しいものではなく、アミン溶剤を使ったガス処理などの技術はすでに何十年も商業的に利用されてきた。しかし、CO₂排出削減の緊急性が高まる中、政策立案者たちはCCUSを有力な気候変動対策として再評価し始めており、近年はアメリカにおける税額控除(45Q)の拡充や、欧州や日本の高い国家目標など、政策支援や財政的インセンティブが大きく前進している。国際エネルギー機関も、電化が難しいハード・トゥ・アベイト産業からの排出削減におけるCCUSの役割を強調している。それでもなお、CCUSにはコストの高さや規制要件、社会的受容などの大きな課題が残されており、前進するにあたって障壁があるのも特徴だ。

CCUSのプロジェクトは4つの技術段階にわけることができる。

  1. 回収(Capture):アミンのような化学溶媒を使って排気ガスや産業廃棄物からCO₂を分離する
  2. 輸送:圧縮されたCO₂をパイプラインや船、鉄道などで指定の場所へ運ぶ
  3. 利用(Utilization):回収したCO₂を合成燃料やポリマー、化学品などの製品に展開したり、石油増進回収(Enhanced Oil Recovery、以下EOR)に利用したりする
  4. 貯蓄(Storage):利用しないCO₂を適切な地質や圧力条件を備えた地下深部へ注入し、長期的に閉じ込める

鉄鋼やセメントなどの工業プロセスは、化石燃料の置き換えが困難なため、大量のCO₂排出がほぼ不可避であり、こうした分野での排出を抑えるためにはCCUSの導入が欠かせない。例えば、化石燃料を使った水素製造で発生するCO₂を回収すれば、低炭素水素をより広く供給できるだけでなく、バイオエネルギーとの併用により、ネガティブ・エミッション(回収量が排出量を上回る状態)を達成することも理論上は可能である。

各国の事例

近年では、いくつかの大規模CCUSプロジェクトが新たに始動したり、既存プロジェクトが重要な節目を迎えたりするなど、技術的進展が世界中で加速している。以下では世界の代表的な事例を3つ取り上げる。

ノルウェー: 「ノーザン・ライト(Northern Lights)」

ノルウェーの「ノーザン・ライト」プロジェクトは、より包括的な「Longship CCS」イニチアチブの一部で、国境を越えたCO2輸送と貯留を実現する取り組みだ。欧州の産業界が排出する液化CO2をノルウェー沿岸のターミナルに運び、そこから北海の海底下に注入する。フェーズ1では、年間約150万トンのCO₂貯留を目指し、2024年9月に運転が開始した。ノルウェー政府は大規模な補助金を提供しており、ノルウェー国営のエネルギー会社Equinor、石油やガスの大手サプライヤーのShell、フランス発の大手エネルギー企業TotalEnergiesなどのパイプラインや貯留施設の建設を協力し進められてきた。この取り組みは、政府の明確な支援と制度設計によって、CCSが商業的・実務的に機能しうる可能性を示しただけでなく、欧州全域でのCCS導入拡大のモデルとなる可能性も含有していると言えるだろう。

アイスランド:「マンモス(Mammoth)」

アイスランドの「マンモス」計画は、2024年5月に操業を開始した世界最大の直接空気回収(Direct Air Capture、以下DAC)施設である。年間最大36,000トンのCO₂を大気中から回収できるよう設計されており、既存の「オルカ(Orca)」プラントの約10倍規模の回収能力を有する。「マンモス」は、地熱由来の再生可能エネルギーを用い、巨大ファンと化学フィルターで空気中のCO₂を集め、地下の玄武岩層に注入して数年以内に炭酸塩鉱物として固化することができる。DACはエネルギー集約的でコストがかかるとされるが、大規模化により効率が向上することでコストの相殺が期待されている。「マンモス」のオペレーションの動向は、今後のDACの商業化に向けたベンチマークとして知見をもたらすと考えられるだろう。

アメリカ:「ペトラ・ノバ(Petra Nova)」

アメリカ・テキサス州の「ペトラ・ノバ」は、石炭火力発電所に設置された世界最大級の燃焼後二酸化炭素回収施設として2017年に稼働を開始。年間140万トンのCO₂を回収し、パイプラインでEORへ送るシステムを構築していた。しかし、2020年の新型コロナウイルス流行や原油価格の下落で採算が合わなくなり、一時停止を余儀なくされたものの、アメリカでの税額控除拡充(45Q)などの政策インセンティブにより、再開へ向けた動きも見られている。「ペトラ・ノバ」の事例から、市場価格や政策支援など安定収益の確保がCCUSにとって重要であることを示す一方、技術面ではほぼ目標を達成しており、CO₂回収技術が機能することを立証した点でも注目すべき事例だと言えるだろう。

これら3つのノルウェー、アイスランド、アメリカの事例は、CCUSの可能性の実証と、それに向けた複雑性を明らかにしており、CCUSが大規模に稼働し排出量を大幅に削減できる可能性がある一方で、高額な初期投資や政策支援への依存、経済的リスクなども顕在化していることがわかる。それでも各国が新規プロジェクトを相次いで立ち上げているのは、早期の教訓によるコスト低減や技術的改良が期待できるとも考えられ、実証事例と知見が蓄積していくことでより実証の幅が広がっていくだろう。

CCUSの両側面

CCUSを導入することで、CO₂の約90%を回収できる可能性があり、特に電化が難しいセクターの排出削減に大きく貢献すると言われている。セメントや鉄鋼、化学産業などでの脱炭素化手段として有効であるほか、回収したCO₂を合成燃料やプラスチック、建材などに再利用して新たな経済的価値を生むことも期待されている。また、CCUSをバイオエネルギーやDACと組み合わせることで、ネガティブ・エミッション(排出を上回る回収)が実現する可能性もある。

一方で、CCUSは設備や運用コストが非常に高く、大規模なパイプラインや貯留施設などのインフラを整備する必要は無視できない。さらに、CO₂漏洩や地震リスクなど社会的受容に関わる課題もあり、誤った運用によっては技術全体の信用を損ねる恐れがある。実際にこれまでにパイプラインにおける漏洩がアメリカで複数報告されており、ミシシッピ州サタルティア(2020)やルイジアナ州サルファー(2024)では、現地の住民が一時的に避難を余儀なくされている。また、CCUS導入が化石燃料の使用を延命させ、再生可能エネルギーへの移行を遅らせると指摘する批評家も少なくなく、実際、現在の導入規模は世界の排出量に比べると微々たるもので、ギガトンスケールに短期間で拡張できるかどうかは現時点では未知数である。

日本のCCUSのランドスケープ

日本が2050年までのカーボンニュートラルを目指すうえで、CCUSは産業活動の維持と温室効果ガス削減を両立できる手段と認識されており、2023年3月、経済産業省は「CCS長期ロードマップ」を策定し、2050年に年間1.2~2.4億トンのCO₂を貯留できる体制構築を視野に、2030年までに国内でCCS事業を開始し、年間600〜1,200万トンのCO₂貯留を実現するとの目標を発表。また、同年7月には政府の「GX(グリーン変革)推進戦略」を閣議決定し、2030年までのCCS事業化に向けた環境整備として先進的プロジェクト支援や必要な法整備の方針を示し、2024年5月には「二酸化炭素の貯留事業に関する法律」が可決されたことでCO₂の貯留・輸送事業に対する許可制度が創設されている。これにより、法規制の明確化とあわせて国内CCUSの実用化が一段と進むと期待される。

一方で政策面では、経済産業省が2023年度当初予算でCCUS関連の研究開発・実証に約80億円を計上し、JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)を通じて2030年までのCCS事業開始を目指した横展開可能なビジネスモデルを確立する「先進的CCS事業」を支援。2024年には9つの事業が発電、石油精製、鉄鋼、化学、紙・パルプ、セメントなどの領域で全国から選定されており、これらプロジェクトの合計で年間数百万トン規模のCO₂貯留を目指す見込みである。

北海道の苫小牧CCS実証プロジェクトでは、石油精製所の水素装置から回収したCO₂を海底下に約30万トン注入する技術が確立され、現時点で大きな漏洩も確認されていない。こうした成果を踏まえ、日本政府は2030年に年間600万〜1200万トン、2050年には支援事業を20〜25件に増やし、年間1億2000万〜2億4000万トンのCO₂を貯留するロードマップを示している。これを実現するためには海底への注入や海外へのCO₂輸送も選択肢として検討され、官民連携によるインフラ整備や制度面での更なる後押しが求められるだろう。 ただし、日本は活断層が多く大規模な陸上貯留が難しいうえ、海底へ注入する場合も厳密な地質調査や莫大なコストが必要とされる。回収コストは1トン当たり1万2800〜2万200円(約90〜150米ドル)と見積もられ、カーボンプライシングや補助金がなければ普及は進みにくいともいわれるが、ENEOSやINPEX、J-POWERなど大手企業がCCUSを重要戦略と位置づけ、アジアCCUSネットワークを通じた国際連携も視野に入れている。また、三井住友海上や東京海上日動、損保ジャパンといった保険各社もCCUS事業向けの投資保険提供を開始しており、CO2漏えい事故や設備トラブルによる損害賠償リスク等を補償することで初期段階の事業リスクを低減する枠組みが設置されている。また、ENEOS・INPEX・Jパワーなどが推進する大規模CCUSプロジェクトでもこうした保険の活用が見込まれており、民間保険と政策支援を組み合わせたリスク低減策が事業化を後押しすると期待される。仮に2030年・2050年の目標を達成できれば、革新的な回収技術や洋上貯留のノウハウと、政策面のサポートが組み合わさった先進事例となる可能性も高い。

令和6年度経済産業省選択CCS実証事業

CCUSは賭ける必要があるか?

総合的に見ると、CCUSは「魔法の特効薬」ではない。排出削減が難しいセクターで大量のCO₂を捕集できるうえ、バイオエネルギーやDACと組み合わせればネガティブ・エミッションも期待できる一方で、高いコストや複雑なインフラ整備、政策支援の必要性など、導入には多くのハードルが存在する。また、一部の批判者は、CCUSが化石燃料依存を長引かせ、再生可能エネルギーへの移行を妨げる可能性も指摘している。

エネルギー資源に制約があり、早急な脱炭素化が求められる日本にとって、CCUSは比較的魅力的な選択肢である。苫小牧などでの実証成功や官民の積極的な取り組みから、将来の大規模導入に対する期待は高まっているが、高コストや地震リスク、法的枠組みの課題などを克服しなければ、2050年のネットゼロ目標に対して十分な貢献ができるかは不透明な部分も多く残る。最終的には、自然エネルギーや水素、その他の低炭素技術と組み合わせる形でCCUSを導入しなければ、脱炭素化全体を遅らせる恐れがあると考えられるのではないだろうか。

まとめ

CCUSは気候変動を解決する大きな切り札になり得る一方、導入には多額の資金や強力な政策支援、社会的受容が必要となる困難な技術でもある。ノルウェーやアイスランド、アメリカの事例からは、CCUSが大規模に稼働し、意味のある排出削減効果を生み出す可能性が示される一方、プロジェクトの成功を左右するのは政策インセンティブと経済条件であることが伺える。

日本の場合、地震リスクや化石燃料依存という制約を抱える中で、長期的なビジョンと官民の連携、法律や規制面の整備が鍵を握ります。アジアCCUSネットワークを通じた地域協力も進展しており、もし日本が掲げる目標を達成すれば、世界が注目するモデルケースを打ち立てていくことも望める。

ただし、CCUS単独で脱炭素化を達成できるわけではなく、再生可能エネルギーや水素など他の技術と合わせて総合的に活用する必要は無視できなく、高コストと不確実性を伴うCCUSは、ある意味計算された賭けということもできるが、気候変動対策と経済発展の両立を目指す各国や企業にとって、有望な選択肢となりつつあるのは確かだろう。これからの取り組み次第で、CCUSが本当に大規模な排出削減と商業的実行可能性を両立できるのかが明らかになるだろう。

詳しくは

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