企業の準備状況からみる、CSRD対応の実態



企業のサステナビリティ報告を義務付ける Corporate Sustainability Reporting Directive (以下CSRD)は欧州企業及び欧州でオペレーションのある企業への段階的な開示請求が2025年から開始する。CSRDは、既存の非財務情報開示指令( Non-Financial Reporting Directive、以下NFRD 2014)を改訂し、ダブルマテリアリティの概念を拡大する。これにより、企業は「財務マテリアリティ」(持続可能性要因が企業にどのように財務的影響を与えるか)と「インパクト・マテリアリティ」(企業活動が環境や社会にどのように影響を与えるか)の両面を開示する必要がある。CSRDの下で企業は、「欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)」に基づいて報告を行う必要があり、これは12項目(ESRS1~2、ESRS E1~5、ESRS S1~4、ESRS G1)を包含しており、将来的には欧州以外の企業にも適用が拡大される予定だ。2025年の初回報告義務を控え、欧州では既に多くの企業が準備を進めている。本記事では、これらの企業の現在の取り組みを解説するとともに、CSRDの特徴について解説していく。

(Codoでは、CSRDの概要について、以前のインサイト記事で紹介している。詳細はこちら:EUによる企業のサステナビリティ報告に関する指令の提案「CSRD(案)」に向けた準備ができているか?

EU政策の背景

2022年12月、EUはCSRDを採択。この指令は、企業の社会的・環境的リスクや機会、および活動が社会や環境に与える影響の開示を義務付けるものであり、適用対象が大幅に拡大した。

CSRDはNFRDを改訂することで、投資家やステークホルダーに一貫性があり、関連性が高く、比較可能で、検証可能かつ信頼性のある持続可能性情報を提供することを目的としている。
主な目標として、2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比で少なくとも55%削減し、2050年までに気候中立を達成することが含まれる。また、CSRDは「EUタクソノミー規則」や「持続可能な金融開示規則」などの他の重要な法規制とも連携している。

特に、CSRDは2024年7月25日に施行された「企業の持続可能性デューデリジェンス指令(CS3D/CSDDD)」と密接に関連している。CS3Dは企業に対し、人権や環境への影響についてのデューデリジェンスを行い、気候移行計画を採用することを義務付けている一方で、CSRDはこれらの義務について透明性のある報告を求めている。CS3Dの適用範囲は立法過程で狭められたものの、CSRDはより広範な企業を対象としている。

CSRDの特徴と対象企業

約50,000の企業(約10,000の欧州外の企業を含む)が対象となるとされるCSRDは、前身となるNFRDに比較して以下の3つ点で異なる。

  1. 適用企業の拡大
  2. ダブルマテリアリティ評価の導入
  3. 第三者保証の要件化

この指令は欧州圏内の大企業や事業者のみならず、中小企業やEU域外設立の企業なども対象とされるため、欧州でオペレーションを行う一定条件を満たす日本企業も対象となる。指令の段階的な適用は2024年から2029年にかけて実施され、まずEUの大企業を対象とし、最終的には2028年までに非EUの「第三国事業体」にも適用される予定だ(報告は2029年に義務化)。

フェース対象となる会計年度報告年対象企業
12024 2025 NFRD適用企業(500人以上の従業員を抱える、もしくはその親会社で連結ベースでバランスシート日で従業員数500人以上の大規模事業体)
例)大規模な上場企業、銀行、保険会社、EU内で上場している従業員500人以上の大規模な非EU企業
220252026NFRDの対象外の大企業(上記以外の大規模事業体)で以下のうち2つ以上に当てはまる企業
– 純売上高: €5,000万以上
– 貸借対照表総額: €2,500万以上
– 会計年度中の平均従業員数: 250人
EU外の企業の場合:
– €1憶5000万以上のEU圏での純売上高
320262027EU規制市場に上場している中小企業(マイクロ事業体を除く)や特定の事業体(例:単純構造金融機関、キャプティブ保険会社)

中規模企業・事業体
– 純売上高: €4,000万以上
– 貸借対照表総額: €2,000万以上
– 会計年度中の平均従業員数:250人

小規模企業・事業体
– 純売上高: €800万
– 貸借対照表総額: €400万
– 会計年度中の平均従業員数: 50人
420282029EU外の企業(EU国内でオペレーションがある、または、子会社がEU圏内にある場合)
– 連続する過去2会計年度において、EU内の純売上高が€1億5000を超える
もしくは
– 直前の会計年度においえ純売上高が€4,000万ユーロを超える支店をEU内に持つ場合
表 1: CSRD義務付けの対象企業と導入時期

ダブルマテリアリティ:中核となる概念

これまでの報告基準(ISSB/IFRS基準など)では、主にESG要因が企業運営に与える財務的影響に焦点が当てられていた。一方で、GRIなど一部の基準は既に企業が社会や環境に与える影響の評価を求めておりダブルマテリアリティの概念は既に適応されていた。その中で、CSRDの下でのダブルマテリアリティ基準は、すべての適用対象企業に対して両方の視点を義務付けている。

  • 財務マテリアリティ(「外から内へ」の視点): 財務的観点から重要とされる事項は、それが企業の将来のキャッシュフローや企業価値に短期、中期、長期で影響を与える、または与える可能性がある場合。この影響は、報告日時点で財務報告で捉えられていない場合も含まれる。(ESRS 1)
  • インパクト・マテリアリティ(「内から外へ」の視点): 持続可能性の事項が、短期、中期、長期にわたり、人々や環境に実際または潜在的に重大な影響を及ぼす場合、影響の観点から重要とされる。(ESRS 1)

この二重の視点により、ステークホルダーは企業の持続可能性パフォーマンスを包括的に把握できるようになり、また、これは、企業が気候や社会的リスクを管理するだけでなく、持続可能な開発に積極的に貢献することを目指すEUの目標とも一致している。

CSRDの報告基準 ESRS

CSRDでは開示対象の企業を明記しているが、実際の開示内容については欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)が策定した欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)によって規定されている。この基準は、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)によって策定されたもので、ESGに関する情報開示の拡充化を図る目的のもと、社会、環境、ガバナンスのトピックに関連する情報の開示を強化するために12のトピックベースの基準で構成されている。これら12のカテゴリにおいて、企業は合計82の「開示要件(Disclosure Requirement、以下DR)」と、1,114の「質的および量的データポイント(Data Point、以下DP)」を報告する必要がある。主要なポイントは以下の通り:

  1. CSRDは包括的な指令であり、具体的な報告内容はESRSが詳細を規定する。
  2. データポイントの数が膨大である:すべてのデータポイントがすべての企業に関連するわけではないものの、以前の報告に比べて、より多くのデータを収集する準備をする必要がある。

さらに、多くの既存のESGフレームワーク(温室効果ガス排出量やガバナンスに関する開示など)は類似性を共有している。特に、EFRAGはGRIと密接に連携してESRSを開発したため、多くの概念や基準が重複しているとされ、既にGRIを使用している企業にとって移行がスムーズになることが期待される。

さらに、標準化された報告フォーマットESEF(European Single Electric Format)の導入により相互運用可能性の情報開示が求められ、これら開示情報全般は第三者による保証が必要になる。

横断的基準ESRS1
全般的原則
ESRS2
一般的な開示事項
 環境ESRS E1
気候変動
ESRS E2
汚染
ESRS E3
水と海洋資源
ESRS E4
生物多様性とエコシステム
ESRS E5
資源循環と
循環型経済
社会ESRS S1
自社の従業員
ESRS S2
バリューチェーンの従業員
ESRS S3
影響を受けるコミュニティ
ESRS E4
消費者およびエンドユーザー
ガバナンスESRS G1
事業活動
表 2 : ESRSの開示項目

ESRS1は、CSRD作成や開示に際した原則や全般的な要件の規定がされ、ESRS2のもと、それぞれのESGの報告領域として1.ガバナンス、2.戦略、3.インパクト、リスクおよび機会の管理、4.指標と目標の開示が求められている。また、全般的な基準、セクター別規準、また中小企業(SMEs)向け規準として開示要件が求められているゆえ、企業はセクター横断・セクター別・企業固有のレイヤーで、ESRSに要求される情報開示が求められる。

ESRS 1は、CSRDに基づく報告書の作成および開示に関する原則と一般要件を概説しており、ESRS2のもと、それぞれのESGの報告領域として1.ガバナンス、2.戦略、3.インパクト、リスクおよび機会の管理、4.指標と目標の開示が求められている。また、全般的な基準、セクター別規準、また中小企業(SMEs)向け規準として開示要件が定められている。

全般基準は業界に関係なくすべての企業に適用されるものの、セクター固有の基準は、特定の業界で事業を展開する企業向けに追加の開示要件を設定している。例えば、繊維産業に属する企業は、業界に関連する追加の要件を報告する必要がある。このセクター固有の基準は、トピック別基準では十分にカバーされていない情報を補完するのが目的だ。そして、SMEs向けの基準は、企業の規模やリソース制約に応じた簡素化された報告基準であり、企業タイプごとの比例性が確保されている仕組みだ。

非ヨーロッパ企業の開示準備を対応

日本企業がCSRDの準備対応を行う上で、まず自社の欧州子会社がCSRDの報告義務に該当するのかを確認されたい。そして報告対象企業と特定された場合、内部および外部システムの確立、CSRD要件に関する社内トレーニングの実施、そして現行の事業運営に関する理解を確保することが推奨される。 また、既存の報告基準との互換性や適用性を評価し、ダブルマテリアリティ評価の実施を検討する必要がある。

具体的な導入方法として、Ecovadisのブループリントでは、企業のバリューチェーンの現状理解から始める段階的ガイドを提供している。企業のバリューチェーンは報告において最もデータ収集が困難な部分であるため、CSRD報告プロセスの初期段階で対応することが、検証可能な報告を実現するうえで重要となる。

ステップトピック内容
1バリューチェーン、事業活動、地理とステークホルダーの理解バリューチェーンをマッピングし、重要なステークホルダーを特定することからプロセスを開始、テーラードされた情報に基づいた重要性評価およびデューデリジェンスアプローチを確立
2デューデリジェンスの結果を活用するサステナビリティデューデリジェンスの結果は企業のダブルマテリアリティに連携しているため、ステークホルダーを巻き込んで、調査結果の妥当性を確認し、視点を提供してもらうことを検討する
3a財務マテリアリティ評価の実施視点を外部から内部へのアプローチに切り替え、サステナビリティに関する課題が自社に与える財務的影響を評価。
3bインパクト・マテリアリティ評価の実施内部から外部への視点は、デューデリジェンスとステークホルダーとのエンゲージメントによって支えられている。ステークホルダーにとっての重要性と自社への影響度に基づいて、ESGトピックのリストを精査し、優先順位を付ける。
4インパクト,リスクおよび機会(IROs)の特定優先順位を付けたESGトピックについて詳細な分析を行い、具体的な影響、リスク、機会を特定。その際、社内データ、業界ベンチマーク、バリューチェーン評価を活用して分析を進める。
5ESRS基準の統合特定した重要なトピックとインパクト、リスク、機会を、対応するESRSの指標および開示要件と整合させる。これらは、スケーラビリティと効率性を確保するために、スマートソフトウェアを活用して追跡する必要がある。
表3: CSRDの導入ステップ

企業のCSRDコンプライアンス準備状況

2024年の会計年度から報告義務が課されるCSRDに向け、欧州では2023年から準備が進められ、多くの企業が統合報告書を通じてCSRDに関連する内容を含める動きを見せている。多くの企業がCSRD関連の内容を統合報告書に組み込んでおり、特にダブルマテリアリティ評価を年次報告書に開示し、既存の報告フレームワーク(例:GRI)がCSRD要件とどのように整合しているかを具体的に示している。これらの早期適用企業には、デンマークのArlaやØrsted、ベルギーのBekaert、オランダのPhilipsなどが挙げられる。

Arlaは2025年のCSRDの開示に向けて2023年より年次報告書の構成を大幅にESRS基準に準拠した構成へと変更、開示に先駆けてESRSに該当する報告書での記載箇所の明記を行っている。同社はダブルマテリアリティ評価を通じて、事業運営やステークホルダーの関心に最も関連する6つのESRSトピックと2つのセクター固有トピック(食品安全と動物福祉)を特定。これら8分野が現在の重点分野だが、この評価は他のESRSトピックを排除したことを意味するものではなく、むしろ現在のCSRD準備段階で最も重要とみなされる分野を示している。

Ørstedは、ダブルマテリアリティ評価から直接派生した開示要件のリストを2023年の年次報告書の付録に含めている。このプロセスにより、インパクト・マテリアリティと財務マテリアリティの両方で重要と判断された要件のみが開示されている。付録には、各開示が年次報告書、経営レビュー、財務諸表、または報酬報告のいずれに含まれるかが具体的に明記されており、E1(気候変動)、E5(資源利用と循環経済)、S3(影響を受けるコミュニティ)などの主要トピックを強調している。この整合性は、Ørstedの開示が基準を満たすだけでなく、企業の持続可能性における最優先事項を直接反映していることを示している。さらに、CSRD報告体制についても記載されており、2015年からESG財務と報告を担当する財務チームがグローバルサステナビリティチームと連携し、CSRD報告基盤として機能していくという。この基盤構築は、CFOが主導するサステナビリティチームによるダブルマテリアリティ評価やESGデータの承認プロセスを通じて進められていく。

次にBekaertは、2023年の年次報告書で外部アドバイザーの支援を受けて、CSRDガイドラインおよびESRS要件に沿ったダブルマテリアリティ評価を実施したことを公表している。同社は60人以上の内部および外部ステークホルダー(取締役、サプライヤー、顧客、金融機関を含む)とのエンゲージメントを行い、バリューチェーン全体を分析。その結果、Bekaertはインパクトマテリアリティ(事業活動の環境および社会への影響)と財務マテリアリティ(企業にとってのリスクと機会)を組み合わせた8つの重要な持続可能性トピックを特定している。この包括的なアプローチにより、Bekaertの報告は、既存のNFRDおよびGRI基準を超えたものであり、データ収集、ステークホルダーのフィードバックの統合、今後のESRSとの整合性を通じてCSRDコンプライアンスの基盤を構築している。

最後にPhilipsもダブルマテリアリティ評価を2023年の年次報告書で公開しており、財務、インパクト・マテリアリティにおける重要性の高いトピックを特定している。財務マテリアリティでは、 (1) 製品責任と安全性、(2) 地政学的出来事、(3) ビッグデータ、AI、サイバーセキュリティ、およびビジネス倫理と一般的なビジネス原則が、インパクト・マテリアリティでは、 (1)気候変動とエネルギー効率(E)、(2)従業員の幸福、健康と安全、(質が高く手頃な)医療へのアクセス(S)、(3)ビッグデータ、AIとサイバーセキュリティ、競争と市場へのアクセス(G)の合計6つが挙げられている。 

さらにPhilipsが拠点とするオランダでは、Van der Molen EISおよびImpact Economy Foundationにより、「オランダCSRDアワード(Dutch CSRD Award)」が国内の監査法人や投資家、環境専門家のネットワークに支援を受ける形で2024年にローンチしており、今年11月にはCSRDアワードが開催され、オランダ国内の34企業が参加。報告義務付け前の先駆的な事例となる「早期導入者(Early Adopters)」として、Philipsは表彰を受けている。受賞の背景には、当社の長年の循環型ビジネスモデルへのコミットメント、2023年の年次報告書でのサステナビリティ報告に関する情報の深さ、さらに外部監査による保証報告が含まれていることが挙げられる。当アワードは、来年以降は報告義務化に伴い企業の報告活動を対象にするとしている。

一方で、企業が低炭素移行に向けた具体的な取り組みを段階的に進めるための支援事業も増えており、その一つにACTを基盤としたCSRD準拠に向けたフレームワーク、「ACT Step-by-Step Methodology(以下、ACT-S)」がACTイニシアチブより提供されている。ADEMEが実施した調査によると、ACT-SはCSRDの開示ポイント(DP)との高い整合性を示しており、ADEMEがACT-SとESRS E1(CSRDの気候変動基準)の相関をマッピングしたところ、以下が明らかになってなっている:

  • ESRS E1にはACTが具体的にカバーする以上のDPが含まれている。
  • ESRS E1の7つの優先的開示要件(E1-2、E1-3、E1-4、IRO-1、SBM-1、Gov-3など)は、ESRS E1全体のDPの約38%を占め、その一部または全部がACT Step-by-Stepで対応可能である。
  • これら7つの優先的開示要件内のDPのうち、83%はACT-Sによって完全または部分的に対応されている。
  • 残りの62%のESRS E1 DPは、ACTの現在の範囲外であり、主に追加の財務情報や前提条件となる指標(例:特定のGHGインベントリの詳細、カーボンシンク、炭素価格設定)を必要とするためである。

実際にフランスでは、CSRDの報告義務に向けすでに400以上の企業が、ACT-Sを導入しているとされ、開示のための内部報告準備を統合的かつ効率的に進めるための可能性を示している。

まとめ

CSRDの導入は、企業の報告負担が増加するため制約と見なされることもあるが、透明性向上やステークホルダーとの信頼構築、また、CSRDへの対応を通じて、企業の戦略、ビジネスモデルへの転換が進む可能性や財務的なメリットも期待される。Codoは、CDPおよびADEMEが主導するACTイニシアチブの認定アドバイザーとして、マテリアリティ評価、教育・トレーニング、ACT-Sを活用した脱炭素戦略の策定を通じて、企業がCSRDコンプライアンスを達成するための支援を行っている。

詳しくは・参考リンク(英語のみ)


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