世界が喫緊の気候変動対策加速化に直面する中、欧州連合は「EU GreenTaxonomy」(以下:EUタクソノミー)の開発を主導しています。2019年に可決されたEUグリーンディールに続き、EUタクソノミーは2020年6月に採択、2021年7月に施行され、段階的に展開される計画となっています。欧州在住のESG専門家Tatjana Gerling氏の意見を参考に、グローバル市場で事業展開する日本企業に対してどのような潜在的影響があるのかをCodoでまとめました。EUタクソノミーについてもっと知りたいという方は、ページ下部でタクソノミーの基本をご紹介しています。
EUタクソノミーの対象企業は?
2023年6月より、特定の基準を満たすすべての企業に対して、以下に示す6つの気候目標の遵守が義務付けられました。

EUタクソノミーの影響力はEUの国境を越えて拡大しています。EU域外で事業を行う企業も、EU域内に重要な事業や上場子会社等がある場合は、その影響を受けることになります。このような世界的な広がりにより、この規制は世界中の企業に影響があると言え、持続可能な慣行との調和や持続可能な取り組みの開示を企業に促します。
EUタクソノミーの対象企業は:
- EUに拠点を置く、従業員数250名以上、年間売上高4,000万ユーロ以上、または貸借対照表で2,000万ユーロ以上の公的企業および民間企業。現在、このような組織は、EUに登録された日本法人を含め、5万社にのぼります。
- EU域内で金融商品を提供・流通する法人(職域年金事業者、EU域外法人を含む)も含みます。
義務的な情報開示に加えて、EUタクソノミーを自主的に活用することもできます。例えばエコラベルをEUレベルで認められた一連の定義に合わせる、「グリーン」を明確に定義したグリーンボンドを発行するなど活用方法は様々です。
EUタクソノミーは、サステナブルファイナンスの基準を世界的に調和させるための触媒としての役割を担っています。他の国々が同様の取り組みを模索する中、EUタクソノミーに合わせることで整合性と国境を越えた投資が促進され、タクソノミーのグローバルな影響力はさらに強化されるでしょう。
日本企業への影響について
EU市場で事業を展開する日本企業やEUの証券取引所に上場している企業は、EUタクソノミーの影響を直接受けることになります。EUタクソノミーの開示要件に準拠し、自社の活動がタクソノミーのサステナビリティ基準に適合していることを確認する必要があります。ESGの専門家のTatjana Gerling氏は:
「日本法人は、社内でESG管理システムやノウハウを開発するか、外聞の専門家に依頼する必要が生じるということです。つまり、日本企業のEU市場での成功は、ESGパフォーマンスと密接に関係してきます。」
EUタクソノミーを遵守することで、日本企業はサステナビリティへのコミットメントをアピールし、責任ある投資家を惹きつけ、市場での地位を向上させることができます。
さらに、EUに拠点を置く企業に商品やサービスを供給している日本企業は、間接的な影響に直面する可能性があります。EU企業は、サプライヤーに対して、環境への影響や持続可能性の実践について、より高い透明性を求めると思われます。日本のサプライヤーは、こうした期待に応えるために関連情報を提供し、EUの取引先との強いパートナーシップを維持する必要があるでしょう。

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公的機関が定めた定義により、何がグリーンで何がグリーンでないかを特定することが容易になることで、EUタクソノミーは環境問題に対する株主のアクティビズムを促進することにもなります。株主や投資家は、自分が出資している日本企業の活動やプロジェクトが、EU規制の下でグリーンとみなされるかどうかを確認できるようになります。このように、明確な定義に照らして事業活動を選別できるようになれば、電源開発株式会社やトヨタ自動車株式会社の欧州株主が2022年と2023年に開始した動きと同様に、欧州の投資家は日本企業に対する圧力を強化できます。
世界的に変わりゆく規制
世界中の国々が同様の持続可能性の枠組みを採用する中、EUタクソノミーは、将来起こりうる規制変更の先駆けとして機能するものです。日本政府はEUタクソノミーを支持しておらず、日本版タクソノミーの明確な計画も発表していませんが、グローバルに活動する日本企業は、EUタクソノミーの要求事項を積極的に理解し、それに従って持続可能な活動を行う必要があります。Gerling氏は:
「財務上の意思決定にグリーン要件を導入するのはEUだけではありません。日本が経済的なつながりを持つ国の中には、独自のタクソノミーを開発しているところがかなりあります。例えば、マレーシア、インドネシア、フィリピン、シンガポールとタイは、「持続可能な金融のためのASEAN分類法フレームワーク」を共同開発し、その実施に向けて動き出しています。そして、これらの国々で活動する日本企業にも影響を与えることになるでしょう。」
また、気候変動には国境がないため、互換性のあるタクソノミーの開発という動きも世界的に見られます。例えば、2017年、G7諸国は、グリーンで持続可能な金融ソリューションを共同でスケールアップするためのグローバルイニシアチブFC4S – Financial Centre for Sustainability –を立ち上げることに合意しました。既存のタクソノミーについて情報を得ることで、日本企業は進化する世界のサステナビリティ基準に先んじ、新たに生まれるサステナブルな投資機会を生かすことができます。

図 1: Status of national green taxonomy development and adoption around the world. Source: Green Taxonomies Around the World: Where Do We Stand? – ECOFACT.
EUタクソノミーの概要
EUタクソノミーとは?
「タクソノミー」とは、物事をその類似性と相違性に基づいて分類し、整理するプロセスを指します。異なる物体や概念など、分類が必要なもの同士の関係を理解するのに役立つ分類のシステムです。
EUタクソノミーの核心は、投資家、企業、その他すべての関係者に、持続可能な活動を特定するための標準化された枠組みを提供することによって、持続可能な金融を奨励することです。EUタクソノミーは、分類システムとして、またEUのサステナブル・ファイナンス取り組みの重要な構成要素としての役割を果たします。経済活動が持続可能であるかどうかを判断するための明確な基準も定めています。この包括的な枠組みは、グリーンウォッシングの防止、市場の透明性の向上、持続可能な投資の意思決定の促進を目的としています。
2020年に採択されたEUタクソノミー規則は、タクソノミーを実施するための法的枠組みを確立しています。
現在のところ、タクソノミーは主に気候変動の緩和と適応に焦点を当てており、エネルギー、製造業、農業、運輸など、さまざまな業界の技術的な審査基準を定めています。開発途中のフレームワークでもあるため将来的には他の環境目標にも範囲を拡大する予定です。EUタクソノミーは、すでに数年の歳月をかけ、非常に広い範囲をカバーしているため、持続可能な金融を規制し、金融の流れをグリーンな活動に向かわせるための最も野心的で高度な試みであると考えられています。
EUタクソノミーのルール
EUタクソノミーのもと、企業は自社の活動や投資について、タクソノミーのサステナビリティ基準との整合性を示す情報を開示することが求められています。この開示は、透明性を高め、投資家が十分な情報を得た上で意思決定ができるようにすることを目的としています。
以下の6つの環境目標に重点を置いています:
- 気候変動の緩和
- 気候変動への適応
- 水と海洋資源の持続可能な利用と保全
- サーキュラーエコノミーへの移行
- 環境汚染の防止と抑制
- 生物多様性と生態系の保全と回復
企業は以下のことを開示しなければなりません:
- EUタクソノミーに準拠した売上高シェア
- EUタクソノミーに沿った資本支出(CapEx)
- EUタクソノミーの沿った営業費用(OpEx)
タクソノミーに沿った活動として認められるためには、以下のことが必要:
- 6つの環境目標の1つ以上に貢献すること
- 6つの環境目標のいずれにも「著しい害を与えない」こと
- 国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」などの「最低限のセーフガード」を満たし、社会的に悪影響を与えないこと
- EUのテクニカル・エキスパート・グループが作成した技術的なスクリーニング基準に適合していること
アクティビティは、その整合性のレベルに応じて、タクソノミーによって3種類に分類されています:
- 実質的貢献活動:最も “グリーン “な活動であると考えられる活動(例:再生可能な電力の生産)
- 実現活動:他の持続可能な活動を可能にする活動(例:電動モビリティの充電インフラの構築)
- 移行活動:低炭素の代替手段がまだない場合に、最もサステナブルな活動
「実質的貢献活動」と「移行活動」の違いを理解するために、タクソノミーの中で旅客の都市間鉄道輸送がどのように考慮されているかを確認すると、電化された線路のみでCO2排出量がゼロであれば、その活動は「移行活動」とみなされます。全線においてCO2排出量がゼロである場合、その活動は「実質的貢献活動」とみなされます。
詳しくは
- EU taxonomy for sustainable activities (European Commission)
寄稿者

Tatjana Gerling 氏
持続可能開発専門家協会(ASDE)(オランダ)アドバイザリーボード員
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日本企業のグリーントランスフォーメーションのあらゆる段階を支援します。

