ファストファッションを標的に: フランスの法案はファッション業界を揺るがすか?



ファストファッションは、低価格とスピードを武器に、消費者のクローゼットを占拠してきました。しかしその安さには、環境への負荷や労働者の権利侵害といった深刻な問題が隠されています。本記事では、2024年にフランスで提案された、ファストファッション規制法案について取り上げます。さらに、日本を含む世界のファッション市場にとって、この新たな規制が何を意味するのか、どのような影響が考えられるのかを考察します。

国連によると、2019年にはファッション業界だけで地球の温室効果ガス排出量の最大8%を占めていた。そして排出量は年々増加し続けている。なぜなら、私たちはより多くの衣類を消費しており、クローゼットを整理するためにほぼ着用していない服を捨てながら、驚異的な速さで新しい洋服を購入しているためである。1

消費者の購入意欲に応えるべく、ファストファッションブランドは最新のファッショントレンドに合った安価な服を提供している。そして常に買い物カゴに入れるものがあるように、毎日新しい洋服を在庫に追加している。服の製造と廃棄も含めて、ファストファッションの環境および社会への悪影響は昔から知られている。しかし、現状具体的な規制が欠如しているため、ファストファッションブランドの唯一の制限は消費者の財布である。

2024年3月、フランスはこの欠陥を訂正することを決定した:フランスの中道右派政党、Horizonsの議員Anne-Cecile Viollandによって提案された法律は、ファストファッションを3つの主な措置を通じて規制することを目指している。

  • ファストファッションの経済、社会、健康、環境影響に関するメッセージを、該当業者のウェブサイト上で商品購入が可能な全ページの小売価格の横に表示(メッセージの内容は今後定義される)
  • 2025年から5ユーロ、2030年までに10ユーロまたは商品の小売価格の50%が課される。本制度を通じて集められた資金は、EU域外のリサイクル施設への資金提供や、EU規制を遵守する企業を優遇するために使われる。
  • ファストファッション小売業者、インフルエンサープロモーションを含む広告の禁止

法律の対象はファストファッション小売業者に限定されており、フランスの国民議会は全会一致で本法案を可決した。法律が正式に成立するには、上院でも可決される必要があるが、採用されればどのような影響があるのか、そして日本企業や消費者にもどのように影響しうるのか考察する。

フランスのアパレルメーカーや小売業者は、自社のリサイクル工程を持たない場合、衣類の廃棄時に適切な処理を行うためのREP(Responsabilite Elargie des Producteurs:拡大生産者責任)と呼ばれる費用を徴収されている。この費用は、メーカーが衣類に耐久性があるか、またはリサイクル素材を含むことを証明できれば減額される仕組みである。今回の法案で提案された負担金は、ウルトラファストファッション業界に対して同様の市場インセンティブを形成することを意図している。将来的には、ウルトラファストファッションに適用される規制が対策を取りサステナブルな製品を提供する企業にとって補助金提供というボーナスに変わることも示唆されている。

詳細は法案可決後に決定されるが、現段階の提案では「ファストファッション」が非常にひろく定義されており、一定期間内に一定数の衣類やアクセサリーを販売する業者を対象としている。「一定期間」や「一定数」はまだ定義されていないが、同じ商品のバリエーション(色別等)は個別にカウントされ、販売期間が貢献要因として設定される予定である。
この法律は明らかにShein、TemuなどのウルトラファストファッションEC事業者を対象としており、特にメッセージ表示に関する措置は実店舗には触れず、ウェブサイトを言及している。法案はまた、SheinやTemuの様な企業が30歳未満の消費者をターゲットにするために多用するインフルエンサーマーケティングを明確に対象としている。このようなマーケティング方法は、業者がインフルエンサーに無償で衣類を送り、インフルエンサーの広告を通して販売された数に応じてインフルエンサーが手数料を得る仕組みである。

しかし、ファストファッションはオンラインプショップに限定されない。H&MやZaraの様な従来のファストファッション小売業者(年間約36,000点)、またはKiabi(年間約15,000点)やE.Leclercなどのフランス国内小売業者は、Sheinと同じ制限の対象になるのだろうか?これらの企業の年間新製品出荷量をSheinの1日あたりの7,200点と比較すると、「ファストファッション」の定義が非常に重要になる。2

定義の設定方法に関わらず、ウルトラファストファッションに対する5〜10ユーロの追加料金が消費者行動に重大な影響を与える可能性がある。 2021年には、低価格の衣類がフランスの消費者の衣類購入の70%を占め、平均価格は8. 2ユーロだった。企業の負担金が直接消費者に転嫁される場合、平均価格は60〜120%増加する可能性がある。

消費者のファストファッションの影響懸念が拡大する中、今回の新法は驚くべきものではない。さらに、より持続可能なファッション産業に移行する動きはフランスに限定されているものでもない。2020年に公表されたEUの循環型経済行動計画とEU産業戦略は、衣類を「持続可能で循環型な生産、消費、ビジネスモデルへの移行が急務であり、多大な可能性を秘めている」と指摘している。長寿命、リサイクル可能で、環境にやさしい衣類で満たされる市場のビジョンを実現するために、EUは2022年にサステナブルでサーキュラーな繊維製品戦略を発表し、以下に代表される主要要件を導入した:

  • 衣類が環境にやさしく、リユース、リサイクル可能なエコデザイン要件の義務化
  • 売れ残り製品の破棄の禁止を含む、捨てられた衣類や破壊された衣類量の開示義務化
  • 「デジタル製品パスポート」とサステナビリティとサーキュラリティーの開示義務化を含む、衣類ラベルの改善
  • 「グリーン」または「エコフレンドリー」といった表現の衣類ブランディングの制限: EUが認知または第三者認証を得た場合のみ使用可能

消費者側では、EUは「RESet the Trend」という持続可能なファッションの啓発キャンペーンを開始している。

日本の市場は規模や製品ライフサイクルの点でフランスとの類似点が非常に多い。2022年の日本市場における衣類の新規供給量は798,000トンのうち、731,000トンが廃棄された。その731,000トンのうち、わずか35%がリサイクルまたはリユースされている。

反対に、日本市場はファッションの社会的影響に関する企業と消費者の意識の面でフランスと異なっている。2022年の経済産業省の調査では、30%のファッション小売業者が取り組むべき社会課題はないと感じていると述べ、40%以上が二酸化炭素排出量、水使用量、廃棄物の量を開示する必要はないと回答した。

しかしながら、日本は遅れながらも、よりサステナブルな市場の実現に向けて進んでいる。2022年には自由民主党の「サステナブルファッションPT(プロジェクトチーム)」が総理大臣に政策提言を行った。提案では、二酸化炭素排出量の透明性の向上と、リサイクルや持続可能な製品へのインセンティブの強化が提案された。これらは価値ある進歩だが、ワーキンググループは市場に出回る新しい衣類の数を減らすことに関する勧告は含まれなかった3。つまり、日本においてフランスで提案されているような「ファストファッション税」は近い将来実現する可能性は低い。

これは日本企業がフランスの動向に無関心でよいということではない。例として、フランスに進出しているユニクロなどのグローバルな日本のファッションブランドは強制労働の疑惑をめぐってフランスのNGOによる攻撃の対象となっている4。フランスでビジネスを展開、または計画中の日本企業は、消費者の意識と規制動向が急速に変化しており、サステナビリティが重要な戦略であることを認識すべきである。さらに、フランスの「ファストファッション税」は今のところ初の試みであるが、EUはそのメンバー国の政策の結果によって、類似した政策を採用することでよく知られている。

フランスやEUで事業を展開していなくとも、日本のファッション業界は積極的に環境にやさしく、社会にもフレンドリーな対策を実行することで、持続可能な社会を実現するというコミットメントを示すだけでなく、自らのブランドイメージを向上させることができる。したがって、グローバルステージでの差別化と長期的成長の機会をつかむことができる。


  1. 国連は「平均的な消費者は15年前より60%多くの衣服を購入している。しかし、各アイテムの保有期間は半分に減っている」と述べている。 ↩︎
  2. 年間5,000点から100,000点まで、対象となる年間新製品出荷量を定義するためにいくつかの修正案が提案されたが、すべて却下されるか撤回された。 ↩︎
  3. フランスの規制型法律について質問されたプロジェクトチーム座長が「(…)サステナビリティの取り組みが規制強化につながれば企業は大きなダメージを受ける。大量生産・大量廃棄は課題だが、作るな、売るな、だけでは米農家の減反政策と同じ。それではファッション業界は発展しない。」と答えた。 ↩︎
  4. 事件は2023年5月に却下された。 ↩︎

Codo Advisoryをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む