開示の義務化が始まるいま、企業は何を語るか
統合報告書とは、売上や利益などの「財務情報」と、ESGやサステナビリティ、インパクトへの取り組みといった「非財務情報」を一つにまとめ、中長期的な企業価値の向上や成長のストーリーを、投資家や従業員などのステークホルダーに伝えるための報告書です。過去の実績に加えて、マテリアリティ(企業が優先して取り組む重要な課題)を軸にこれからの方向性を示すことが多く、社外だけでなく社内へのメッセージとしても活用されています。
株式会社エッジ・インターナショナルは、上場企業を中心に、統合報告書やアニュアルレポートの企画・制作、IR・ESG支援を手がける「企業価値デザインカンパニー®」です。Codo Advisoryは、このエッジ・インターナショナルと共同で、冊子「Co-Impact Bridge for Growth」を発刊しました。
今回は、エッジ・インターナショナルの執行役員で、ESGアドバイザリー部門の部門長を務める江森郁実さんに、統合報告書づくりの現場で起きていること、ESG開示支援の実際、そして冊子をつくってみての思いを伺いました。
Q1 統合報告書づくりの現場で、どんな仕事をしていますか?
統合報告書に何を載せ、何を伝えるかを、お客様と議論していきます。私はその議論を横で聞きながら、お客様が言いたいことを把握し、読者の立場から助言しています。「伝えたいのであれば、この見せ方よりこちらのほうが伝わるのではないか」「こう見せると誤解を与えるかもしれない」といったことです。
特に気を配るのがガバナンスです。企業の担当者は、投資家と腹を割って話す機会が多くありません。投資家も、気づいていてもわざわざ言ってはくれません。だから担当者が気づくきっかけが、なかなかないんです。こちらから指摘すると、「言われてみればそうですね」ととても喜んでいただけます。
この仕事を選んだ原点は、高校の文化祭です。リサイクル担当として廃棄物を減らそうと、発泡スチロールなどの材料を制限したら、「作りたいものが作れない」と反発を受けました。環境によいことをするには、経済合理性が要る。そうでなければ人は動かない。経済合理性を判断するのは市場で、その土台になるのが情報開示です。そう考えて、開示支援の会社に入りました。
Q2 2027年版の統合報告書に向けて、いま企業から一番多い相談は何ですか?
大きく二つあります。
一つはAIへの対応です。統合報告書の新しい読み手として、AIが現れました。ただ、何をすれば「対応した」ことになるのかは、企業の担当者にもまだ見えていません。「価値創造ストーリーを強くしたい」といった相談ならご要望がはっきりしているのですが、AIについてはまだふんわりしていて、まず情報と対応策の提案を求められます。
もう一つは、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)の基準の強制適用です。時価総額3兆円以上の会社は2027年3月期の報告書から対応が必要で、1兆円以上の会社もその次に控えています。
一方、時価総額5,000億円未満など、SSBJ基準がすぐには適用されない会社からの相談は、まばらで決まった傾向がありません。最近は、お話ししたあとに「まず自分たちで方針を決めないといけないと気づいた。社内で議論してから、あらためて声をかけます」と持ち帰る会社が増えています。人手が限られているからこそ、とりあえず始めるのではなく、自分たちで考えてから進める。健全な姿勢だと思います。
Q3 真剣に取り組んでいるのに、そう見えない会社があるのはなぜですか?
真剣な会社にも、2種類あると思っています。一つは、経営トップや責任者が完全に自分の言葉で語れる会社。もう一つは、大事だとわかってはいても言葉にできておらず、社内に伝わっていない会社です。
社内に説明できなければ、社員は「社長は言っているけれど、後回しでいいか」と受け取ります。社外からは「ポーズだけ」と見られてしまう。取材をしてみると、意外と真剣に考えていたと気づくことがよくあります。想いがあるのに伝えられていない。とてももったいないと感じます。
原因の一つは、トップが話す機会そのものがないことです。統合報告書の取材に同席した担当者から、「役員の話をこんなに深く聞いたのは初めてです」と言われることがよくあります。1時間の取材で、役員の方は原稿にならない会社の成り立ちや、大切にしてきたこと、戦略の背景まで話してくださいます。経営会議では話していても、現場のマネージャーには届いていないんです。

Q4 有価証券報告書に一本化する会社と、統合報告書を続ける会社。何が分かれ目ですか?
一本化をはっきり表明している会社は、まだ少数です。一本化を選ぶ会社が挙げる理由は、「それがグローバルスタンダードだから」というものです。欧州では、年次報告書の中にサステナビリティの情報を入れる「ワンレポート」が主流です。国際的な基準の土俵で戦うと決めた会社は、読み手にとって一番使いやすい形を意識して、一本化に向かう傾向があります。
統合報告書を続けたい会社には、「決められた枠組みとは別に、自分たちが伝えたいメッセージがある」という意思があります。
どちらが正解というわけではありません。決められたルールの中で独自性を探す道もあれば、最低限のルールは守りつつ、言いたいことを伝える媒体を別に持つ道もあります。ただ、自社らしさが言葉になっていない会社は、相手の土俵で戦うしかなくなってしまうと思います。
Q5 AIに読まれることに、企業はどこまで備えるべきですか?
企業の側には、「必死に作ったものがAIに読まれなくなるのではないか」「読み取りにくい作りのせいで情報がないと見なされ、足切りされるのではないか」という不安があります。ただ、投資家の方に聞いても、「AIは使うけれど、分析はそんなに単純な仕事ではない」とおっしゃいます。
技術的には、画像の裏に文字情報を埋め込む、データに説明情報(メタデータ)を付ける、見出しの階層をそろえて機械が構造を読み取りやすくする、といった対応があります。当社では、PDFとは別に、文章を構造化したテキストデータで納品する試みも始めています。
とはいえ、WebサイトのPDFがAIなどの自動収集を拒む設定になっていないかを確かめる、といった基本を押さえておけば十分だと思います。
冊子「Co-Impact Bridge for Growth」をつくって
これまでCodoさんと個別に話してきたことを、1冊にまとめられて本当によかったです。取材した丸井グループさんとWaquaさんは、非財務の価値を体現している数少ない企業です。特にWaquaさんは、普段接することの少ない非上場の会社で、技術力だけに頼らず、経営のプロとして株主や投資家と対話されている姿がとても新鮮でした。
パラパラと手に取って読んでもらえる紙の冊子は、どんなに良いWebの記事よりも届く確率が上がります。ぜひ多くの方に読んでいただきたいです。
冊子のご案内
Codo Advisoryとエッジ・インターナショナルは、冊子「Co-Impact Bridge for Growth」を共同で発刊しました。外からの評価を見える化するCodoと、それを伝わる形にするエッジ・インターナショナルが、企業の見えない価値を投資家や社会に届けるための考え方をまとめています。冊子は無料で、印刷版を郵送でお届けします。

江森 郁実 氏
株式会社エッジ・インターナショナル 執行役員
ESGアドバイザリー部門 部門長
EDGEリサーチ・インスティテュート 上席研究員
開示支援会社に入社し、CSRレポートの制作支援を担当。2008年のリーマン・ショック後に日本でESGという言葉が広がるなかで、18年近くこの領域に携わる。現在はエッジ・インターナショナルで、統合報告書づくりの現場で企業を支援している。

天野 由華
Codo Advisory株式会社
ディレクター
大阪市立大学(現 大阪公立大学)大学院修了(修士(経営学))。専門はソーシャルアントレプレナーシップ。製造業経営チーム、上場子会社代表取締役、大学発ベンチャーCMOなど複数の事業経営を経た後、MCP PE/VC投資運用部にて4年間、投資先DD、モニタリング、LP対応・関係性構築等の投資実務に従事。並行して、MCPグループのPE/VCファンドにおけるインパクト投資推進を担当し、ファンドレベルのインパクトフロー(ToC策定、投資基準へのインパクト視点の組込み)およびDD、IC、投資後におけるインパクト評価を体系化。Codo Advisoryにてインパクト投資・IMM分野のアドバイザリーを担う。
