インタビュー | Codo Advisory 取締役 青木ユリシーズ

青木 ユリシーズは、サステナビリティ分野において10年以上の経験を持つ実践派のリーダーです。新卒ではサステナビリティのコンサルティング業務からスタートし、国内外の大手企業のプロジェクトをリードする傍ら、ユニコーン企業やインパクト投資ファンドにおいてもその手腕を発揮されてきました。その中で得た豊富な知識と多様な視点を生かし、このたびCodo Advisoryに加わり、新たな挑戦に臨まれています。今回のインタビューでは、サステナビリティ分野を志すに至った背景、これまでのキャリアを持って学んだサステナビリティの潮流に対する認識、そしてCodoに期待する未来についてお話を伺いました。


ベノア: 本日はお時間をいただきありがとうございます。まだCodo Advisoryへ入社されてから日が浅くはありますが、ユリシーズさんのこれまでの道のりについてお伺いできたらと思います。まずは、この道を志したきっかけについてお聞かせいただけますでしょうか。

青木:  私はこれまでのキャリアをサステナビリティ分野に捧げてきました。最初はコンサルティングから始めましたが、これは正直なところ、当時の日本にはまだサステナビリティに関する職種がほとんど存在しておらず、唯一与えられた機会だったからです。母には「そんなニッチな分野を仕事にするなんて」と驚かれましたが、実は学生の時からこの道を歩むと心に決めていました。

ベノア: 学生の時からすでにその道を志していたとは驚きです。どのように学生生活がサステナビリティやESG分野への関心を広げたのかお聞かせいただけますか。

青木:
中学生の頃、気候変動について耳にしたことがきっかけで、母のパソコンを使って調べ、そのテーマに関する作文を書いたりしました。人類が地球にこれほど多大な害を与えてきたのに、なぜそれを解決するための仕事が世の中にもっと存在しないのかが不思議でした。調べていくうちに、当時はかなり少なかったですがいくつかの企業が排出量削減等に取り組んでいることを知り、汚染に対する責任が大きいステークホルダーや大企業の変革を促すことが、問題解決の合理的なアプローチなのではないかと考えるようになりました。

ベノア: その好奇心が、企業と協力してこれらの取り組みを前進させる仕事へと繋がったのですね。

青木: そうですね。キャリアパスとしては、2015年にEYジャパンのサステナビリティチーム初となる新卒採用枠で入社し、日本の大手企業の第一フェーズのサステナビリティプロジェクトの多くに携わる機会を得ました。振り返ると、これが偶然なのか、それとも意志があった上で呼び込めたのかはわかりませんが(笑)。2019年にEYを退職した後は、フリーランスとして日本企業のサステナビリティ支援を行い、後に日本最大のユニコーンスタートアップであったSpiberでも働きました。スタートアップで働く中で、投資家が持つサステナビリティ推進への影響力に関心をもち、それが日本初のインパクトVCの一つに参加するきっかけとなりました。そこでは投資先のインパクト評価や価値向上(バリューアップ)をする傍ら、コンサルティング事業の立ち上げにも携わり、物凄く優秀なチームと一緒に働く機会が与えられました。私は平均的な日本のサラリーマンと比較しキャリアチェンジが多いですが、それらはすべて有機的に繋がれてきたので個人的には満足しています。このような経験を経て、サステナビリティの世界では重要である「異なるステークホルダーの視点」 ― サステナビリティのアジェンダを推進する支援家、企業、投資家等 ― を網羅し理解することができました。

ベノア: 当に多様な経験を積まれていますね。特に印象に残っている瞬間やプロジェクトについて教えてください。

青木: EY在籍中に取り組んだプロジェクトの多くは各種業界のベンチマーク的案件となりましたが、これは当時予想もしていませんでしたね。

ベノア: 確かに、2015年頃、サステナビリティは多くの日本企業から重要な課題として認識されていませんでした。

青木: そうですね。当時は日本企業にサステナビリティに取り組むよう説得することに非常に苦労しました。だからこそEY時代に支援をさせていただいた、先駆者として道を切り開いてきた企業が市場から評価を受けていることは感慨深いです。当時我々も「本質的なサステナビリティの取り組みが企業価値を高める」と信じていましたし証拠がしっかり残った気がします。

ベノア: 当時取り組まれたプロジェクトについて、もう少し教えていただけますか

青木: 大手日本企業向けのサステナビリティや統合戦略策定、人権の方針策定やデューデリジェンス支援、そしてグローバルにご活躍されている日本企業向けの持続可能な調達に関する大規模なプロジェクトを担当しました。また、SDGsの日本版の導入サポートや、東京オリンピックに向けたサステナビリティ全体支援、国連グローバルコンパクトの分科会講師等も務めました。まだまだ若かった時ですが、このような機会を与えてくれたEYには本当に感謝しています。

ベノア: Spiberでのお仕事も興味深いですね。その時の印象的なプロジェクトについて教えてください

青木: Spiberでは、同社初のインパクト戦略とインパクトレポート作成に取り組んだことが特に記憶に残っています。戦略室の室長として、初めて構想から実施・完遂担当したプロジェクトで、CEOと密接にコミュニケーションを取りながら進めました。日本のスタートアップでこのような取り組みをこのような規模で実施するのは非常に珍しいことでした。

ベノア: サステナビリティに携わってきたこの約10年の中で、日本の企業における変化やトレンドをどう見られていますか。

青木: この分野に10年従事し、客観的な視点と従事者の視点を行き来しながら、長期的且つ高い視座を持つことができるようになりましたし、「トレンド」や「一時的な変化」として捉えられているものにしっかりとした背景や理由があることを体感してきました。
2015年頃には、CSR(企業の社会的責任)からCSV(共通価値の創造)への転換が見られ、SDGsやGRIの導入が進み、企業が非財務情報を報告するための国際的な枠組みが作られていきました。当時は、アナリストが活用できるサステナビリティに関するデータが存在しておらず、また、評価機関や国際機関等の意見発信者はそれによって事実(ファクト)に基づく前提を構築できませんでした。また、企業に対して「これをやりましょうよ」とアドボカシー側から論理的に伝えられる財務的根拠もほぼ存在しませんでした。情報開示を促す環境構築をすることにより、国際NGOを筆頭としたアドボカシーや支援者側の理論武装を促し、さらには金融機関、特に影響力を持つ投資家たちを突くことがやっとできるようになりました。
その後、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRI(責任投資原則)に動かされてESG指数を採用したことで、サステナビリティ報告はある程度、財務的な動機付けを伴うようになりました。さらにTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が採用され、金融機関にコミットメントを求める圧力が生じ、その結果として事業会社もTCFDを採用し、気候変動問題に対するコミットメントを打ち出す流れにつながりました。

ベノア: 現在の状況をどのように見られていますか。

青木: これまでの取り組みの結果として、現在では、投資家が持続可能性やESGを受託者責任の一部として考慮しなくてはいけないような環境が出来上がったと感じてます。また、企業は内外のステークホルダーや持続可能性を重視する競合他社からのプレッシャーを受け、できる限り多くの情報を開示し、コミットメントを設定しています。その傍ら、開示、排出量削減や算定、廃棄物などに関する規制が動きつつあります。

繰り返しになってしまいますが、その場その場では単なるトレンドに見えるかもしれませんが、背景を踏まえると、実際はそれぞれ理由が設けられている事象だと私は感じています。我々地球市民全員がこの地球規模の問題を解決するために果たすべき役割を持っています。時間はかかっているものの、ここまでの進展は非常に大きな成果であり、この大きな変革に参加している人々は称賛されるべきだと思います。

ベノア: サステナビリティへの取り組みがこれほどの進歩を遂げているのは素晴らしいことですね。このようなタイミングでCodoに加わる決断をされた背景には何があったのでしょうか?

青木: 先ほど挙げた点に加えて、サステナビリティ市場が今、重要な転換期にあると二つの側面から考えています。まず一つ目に、開示が豊富になった結果、ある意味で無味乾燥になりつつあり、社会は実際の変革を欲しているという点です。二つ目は、変革を促すためにはサステナビリティの取り組みをより効果的に実装する必要があるという点です。
Codoは特に脱炭素化や移行計画策定、サステナビリティ教育の分野に強みを持っています。これらはグローバルレベルでの社会課題解決を前進させるため必要不可欠であり、理想的には、企業が今最もリソースと時間を注ぐべき分野だと考えています。

ベノア: 企業がサステナビリティの取り組みを強化する際に、特に直面するであろう課題にはどのようなものがありますか。

青木: 先ほども述べたように、サステナビリティの取り組みは効率化される必要があります。耳が痛いかもしれませんが、昨今起きている事象として、企業はただ報告を行う目的だけのために情報を収集・開示し、形骸化しているKPIは様式美的に設定され、人的資本やサプライチェーンの取り組みが重複し混乱を招き、移行計画や脱炭素コミットメントは感覚的に作られてしまっています。
さらに、支援家の観点においてもこれらの取り組みをサポートできる体制やファームも分散しています。トップダウンの戦略を担当する戦略コンサルティングファーム、開示物の作成を担当する別組織、その先には脱炭素化のコミットメントを設定する専門家たち、そして二酸化炭素排出量の計算やサプライチェーンの調査を提供するSaaSプロバイダーなどがあります。このような分断は、専門性を重視した挙句に仕方なくできた構造だと理解しながらも、企業にとっては混乱を招きモチベーションを低下させる要因となるはずです。特に、これからより引き締まった(リーン)経営を望んでいる日本企業は、摩擦が無く信頼をおける支援者を必要としています。

ベノア: ここでCodoの「ワンストップショップ」アプローチが効果的にこれらの課題に対処できるとお考えでしょうか。

青木: はい、Codoの経営チームに参画した理由の一つは、私が前途した、市場が抱える問題を解消できる確率が高いと信じているからです。サステナビリティ市場は少しずつ混雑し始めていますが、まだまだ改善すべきことや待ち構えている課題が多く、エキサイティングだと思っています。

ベノア: Codoは多岐に渡るサービスを提供していますが、それは企業のサステナビリティやESGの抱える範囲が広がっている現状を反映しているためとも言えます。今後特に需要が高まると予想されるサービスは何ですか?

青木: ごもっともだと思います。サステナビリティの定義やESGの範囲は広いですし、日々その「解」みたいなものが議論されてます。
今後の需要予測ですが、戦略と密な関係にある移行計画策定とサプライチェーン上における活動実施、そして今後数年は人的資本・人権・ウェルビーイングに関する取り組みは重要になると考えてます。長期的には、サステナビリティ教育が必要となるでしょう。そしてもちろん、規制が日々変化しているため、開示に対する需要は常に存在すると思います。少し斜め上な個人的予測をすると、今後ESGリスクとマーケティング/広告における整合性チェックやデューデリジェンスが重要になってくると考えていますが、これは市場としても現時点で未開拓領域ですね。

ベノア: 多くの企業から、どこからサステナビリティの取り組みを始めるべきかという質問を受けます。そういった企業に対して、どのようなアドバイスをしますか。

青木: 私のアドバイスは、「できることをやりましょう、但しやると決めたことは本質論で追及しましょう」です。「開示のため」「規制がそろそろ来るため」ではなく、解決したい社会課題があってこそ取り組むべきです。10年前にサステナビリティに関する活動を正しく且つ本質的に推進したリーディングカンパニーの取り組みは今でも健在で、開示も引き続きされていますし、経営目線でも大きな価値に繋がりました。私のこのアプローチは、高貴で洗練された何かに基づいているわけでもなく、比較的シンプルな倫理観と理念に基づいています。私たちは皆一度きりの人生を生きているので、その時間を効果的に使ってできる限りの表現をし、私たちが生きる世界のために良いことをするのはどうでしょう、といった考えです。

ベノア: それはパワフルな視点ですね。このように急速に進化する分野で、どのように日々情報を得たり、インスピレーションを受けたりしていますか?

青木: サステナビリティの分野に絞れば、業界に継続的に影響を与えてきたインサイトやレポート、例えば世界経済フォーラム(WEF)のリスクレポートや、各分野で先進的なインサイトを提供してきた国際NGOのレポートや調査、一貫した理念を持つ企業や団体などからインスピレーションを受けています。

ベノア:  最後に、サステナビリティへの理解を深めたいと考えている読者の方々におすすめのリソース、書籍または第一人者などはいますか。

青木: 思考法や倫理・道徳の源となるような文献を好んでまして、常にこれらに立ち返るようにしています。例えば、マルクス・アウレリウスの『自省録』、『老子道徳経』、プラトンの『五つの対話(Five Dialogues)』などがあります。私たちが生きる現代社会はとてつもない速度で変化を遂げ、サステナビリティの実践方法や規制が一晩で変わるように見えますが、倫理や道徳は依然として根本的で普遍の概念に基づいていると考えています。

サステナビリティに関連する本としては、ビル・ゲイツの『地球の未来のために僕が決断したこと(How to Avoid a Climate Disaster)』をおすすめします。気候変動に関する問題、解決策、そしてそのアプローチや行動に関する注意点を包括的かつ定量的に解説しており、一般の読者にも分かりやすく書かれていました。

ベノア: 本日はインサイトを共有いただき、ありがとうざいました!今後のCodoでの、また、サステナビリティ領域での継続した活躍を楽しみにしています!


青木ユリシーズ 

Codo Advisory株式会社
取締役

ICU国際基督教大学卒。ESG全般とサステナビリティ戦略、インパクト等を10年以上経験してきたサステナビリティプロフェッショナル。大手コンサルティングファームのサステナビリティチームの初期メンバーとして国内ベストプラクティスの早期形成に貢献をした後、Spiber inc.社にて国内初インパクト戦略とレポートを策定。その後、GLIN Impact Capitalにてインパクト投資を実施しながらコンサルティングチームの立ち上げに貢献。MCPアセットマネジメント株式会社のESG & Impactディレクター、Spiber inc. のインパクトアドバイザーも担う。

モルガン・ベノア 

Codo Advisory株式会社
サステナビリティ・コンサルタント / アドミニストレイティブコーディネーター

エクス=マルセイユ大学院卒。EU-日本の気候協力と異文化関係の専門家であるサステナビリティコンサルタント。Codo Advisoryの教育サービスのメイン・ファシリテーターおよびトレーナーとして活動し、コンサルティングプロジェクトのサポートも行っている。Climate FreskおよびBiodiversity Collageの認定トレーナー、Digital Collageおよび2tonnes(フランス)の認定ファシリテーター。また、Codo Advisoryの月刊コラム「Codo’s Insights」に定期的に寄稿し、日本および世界のESG政策やトレンドを分析している。


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