「気候変動と人権」序章



(本記事の読者は「公正な移行(Just Transition)と社会的公平性(Social Equity)」も合わせて読むことを推奨する)

「気候変動と人権」といった分野をご存じだろうか。「気候変動」分野と「人権」分野を個別課題として捉えるのではなく、気候変動や気候変動対応による「人」への影響を鑑みることを指す。筆者が様々な文献を読み漁っていく中で気づいた点としては「気候変動と人権」の議論は、実は表裏一体の関係にある、二つの事柄を示すということである。そしてこの二つの事柄は可能な限り分類したうえで語ることを推奨し、本記事で理由を述べていきたい。

Climate Justice(気候正義)とは

気候変動によって多くの人々の権利(いわゆる人権)が侵害されてしまうことが少しずつ社会の明るみに出ている。つまるところ、社会が気候変動対策を怠ってしまうことによって気候変動が進み、それによって様々な影響が人々に及んでしまっている。そして、我々市民全員が影響を受けると同時に、既に脆弱な立場にいる人々の方が大きな影響を受けてしまう不平等な構造になっている。

The World Health Organization (WHO)によれば、2030年から2050年の間で気候変動によって25万人の命が奪われると試算されている。生きる権利が失われる以外にも、さらにAmnesty Internationalは以下を例として気候変動が人権に影響を与えうると考えている:

  • 熱波や火災、食糧生産危機起因の栄養失調、媒介感染症の上昇などによる健康権利への影響
  • 洪水や山火事、海面上昇等による居住の権利への影響
  • 気候変動による気温の上昇、海面水位の上昇等が発生し、水の質と量が脅かされることによる水・衛生に対する権利への影響

気候変動の減速は人権への影響を低減させる。「気候変動と人権」において、この事柄を「Climate Justice (気候正義)」と呼ぶ。気候正義が行使されなければ、人権侵害の連鎖に歯止めが効かなくなる。そして気候正義を実行する場合に必要となる考え方が、「Just Transition (公正な移行)」であり、今回ご紹介するもう一つの概念である。

Just Transition (公正な移行)とは

 「公正な移行」とは、脱炭素化の取り組みにより誰も不利益を被ることなく、気候変動対策と社会的公平性を両立する持続可能な経済への移行である。

 脱炭素社会へ移行するための取り組みは、グリーントランスフォーメーション(GX)と呼ばれるが、それと同時に、社会もまた変革を伴う。社会の持続可能に向けた変革を「ソーシャル・トランスフォーメーション」と呼び、普遍的な人類の発展を達成しようとする考え方である。これら環境的側面と社会的側面の両方の視点を考慮した、持続可能な社会への移行こそが、「公正な移行」である。

公正な移行に関するイメージをいくつか以下に例示する:

  • EVや蓄電池の需要加速によるコバルト採掘の需要過多が発生。需給を間に合わせるために多くの児童労働・強制労働問題が上流サプライチェーンで発生
  • 再生可能エネルギープロジェクトの早急な開発のため、地域コミュニティに相談なく強制退去させた
  • 自動車メーカーがEV開発に注力をするようになり、ICE開発に携わっていた経験豊富な従業員を事前の申告なく解雇した

公正な移行に関する詳細は、弊社記事の「公正な移行と社会的公平性」を参照されたい。

 二つの事柄を棲み分ける必要性とは

では、表裏一体の関係であるにも関わらず、冒頭に述べたようになぜ「気候正義」と「公正な移行」 を棲み分けて考える必要性があるのか。

理由は極めて単純であり、「是正のための活動や意識が全く異なるため」である。例として、企業が公正な移行という単語に文脈無しに直面した場合、「なんか大変そうだから既存のビジネスモデルのままでよいだろう」と思ってしまうかもしれない。ただし、本来「公正な移行」は「気候正義」の実行延長線上にあるものである。

しかし、今現在は逆の事象が起きていると筆者は認識している。企業や国レベルで少しずつ気候正義の実行フェーズにあり、脱炭素化を図ってはいるが、公正な移行に意識が向いていない。繰り返しとなるが、「気候変動と人権」における実際の解決・是正策を文脈ありきで提示するためには、この二つの概念を一つのピースとして伝達する必要性がある。

解決策

振り返れば、社会として今まで「気候変動」対応と「人権」対応、― 要するにESGのE分野とS分野を切り離して語り、取り組んでいたものの、サイロ化していたとも言える。特に企業努力ともなれば環境デューデリジェンスの実施やバリューチェーン上での脱炭素化を図る活動をしてきたものの、最終的な利害関係者である「人」とそれがどう関係するのかが見失われていた。国レベルにおいてもネットゼロコミットメント策定等を実行してきたが、それが人権とどういった相互関係になるかの手引きは出ていなかった。

では、どういった解決策が考えられるか。先行的な取り組みを行っている人権団体のDanish Institute for Human Rightsと、独自の「公正な移行に関する方針」を持つAir Liquide等を参照にしながら、以下の表を作成した。企業や国・地域レベルで取れる行動や推進活動を述べたものの、まだまだ本分野も草創期であるが故に、漏れがあるということを前提にご確認いただきたい。

今回の記事では、「気候変動と人権」といった統合アプローチを取ることの重要性について取り上げたが、いかがだっただろうか。今後は企業として、国としてどういった具体的なアクションを取れるか検討するフェーズに入ると考えているが、一先ずは上記の図をご参照いただきたい。

弊社Codo Advisoryでは企業の人権デューデリジェンス実施、移行計画策定等を支援しています。また、「公正な移行に関する企業方針」の策定を企業・業界によって推奨し、支援をすることも可能です。



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