グリッドか、グリーンフィールドか?加速する日本のエネルギーミックスにおける移行ロードマップ設計の考察:近未来エネルギー(後編)



前回の記事では、日本の第7次エネルギー基本計画がデジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)を軸とした経済成長を支えるため、安全で信頼性の高いエネルギー供給を政府の要請を背景に策定されている点を取り上げた。こうした移行を実現するには、データセンターの拡張、工業炉やボイラーなどの局所的な化石燃料由来の熱源の電化を支えるため、企業の電力需要が大幅に増加する。

一方、グローバルステークホルダーは、企業に対してネットゼロ目標に向けた進捗を示すことを求めており、場合によっては資金調達条件にも影響を及ぼす。第7次エネルギー基本計画ではこうした要請に応える形で、太陽光発電と原子力発電を中心としたCo2低排出型エネルギーの電力系統への統合を推進する方針が示されている。

本記事では、原子力発電と太陽光発電について、現状の技術動向、投資とサステナビリティ上のトレードオフ、目標の達成可能性を整理し、次の問いを検討する。

移行ロードマップを策定するにあたり、企業は日本の電力系統の脱炭素化に軸足を置くべきか、
それとも自社主導でグリーンフィールド型投資を行うべきか?

原子力発電

日本における原子力発電の現状

現在、日本の電力系統には年間約14GW相当の電力が原子力発電によって供給されている。第7次エネルギー基本計画では、2040年までに少なくとも14GW以上の原子力発電容量を追加し、電源構成に占める原子力発電比率を20%に引き上げる目標が示されている。

稼働可能な33基の原子炉のうち、14基(約14GW)はすでに再稼働しており、10基(約10.7GW)は再稼働許可の申請中、さらに2基(約2.9GW)は建設を再開している状況である。一方で、これらのうち21基は2040年時点で設計時に想定された運転年数を超過する見込みである。

原子力発電は、安全性、放射性廃棄物の発生、ならびに再生可能性に関する説明の妥当性を巡り、日本国内では依然として根強い論争の対象となっている。詳細については、前回の記事を参照されたい。

図表1:原子力発電所の現状(資源エネルギー庁)

日本は2040年までにエネルギーミックスの目標である原子力発電20%を達成可能か

技術的には可能であるが、実現性は極めて低いと考えられる。
2040年まで約15年しか残されていないにもかかわらず、原子炉の再稼働には平均して申請から約3年を要し、新設炉の場合は建設だけでも6〜8年を要する。2040年の目標達成には、再稼働申請中の原子炉および建設中の原子炉がすべて稼働に至る必要がある。

図表2:日本の原子炉の現状(自然エネルギー財団)

さらに、稼働可能な33基のうち3基は地震被害や活断層の存在により再稼働が困難と見込まれている。加えて、建設許可は得たものの完成に至らなかった原子炉が3基存在し、そのうち1つの建設予定地では基礎工事すら行われていない。
このような土地は、第4世原子炉と呼ばれる新技術を導入するうえで、最も有望な候補地となる。第4世代原子炉は、安全性や廃棄物問題といった原子力発電に対する懸念を軽減しうるものである。

次世代原子力技術にはどのようなものがあるか

日本はすでに次世代原子力技術への投資を開始している。第4世代の技術開発は、日本社会が特に懸念してきた安全性と廃棄物管理の課題に直接対処することを目指した設計である。核融合といった注目度の高い長期投資に加え、日本は高温ガス炉、トリウム炉、小型モジュール炉(SMR)、およびGE日立のS-PRISMに代表されるナトリウム冷却高速炉のような第4世代原子炉を検討対象としている。
第4世代原子力技術は多岐にわたるが、本記事では以下の4種類に焦点を当てる。

  • 小型モジュール炉(SMR)
    出力1GW未満での量産を前提とした設計であり、建設期間の短縮や立地の柔軟性が期待できる。分散型電源としてエネルギーインフラ開発要件を削減できる可能性があるが、現時点では開発段階にある。
  • トリウム炉
    従来の原子炉とは異なる燃料であるトリウムを使用する点に利点がある。トリウムはウランよりも埋蔵量が豊富でエネルギー効率が高く、兵器利用しにくい核廃棄物特性を持ち、現在は試作段階である。
  • 増殖炉
    使用済み燃料を再利用して新たな燃料を生み出す設計であり、完全使用後に残る廃棄物の放射能を低減できる。ウラン炉・トリウム炉の双方に適用可能で、現在は試作段階にある。
  • 高温ガス炉
    初期型原子炉の設計を発展させ、セラミック被覆燃料粒子とヘリウム冷却材を用いることで、安全性と燃料効率を向上させている。中国ではすでに2基が稼働している。

再生可能エネルギー研究所などの一部市場関係者は、これらの新技術が2040年までに電力系統に導入される可能性は低いと見ている。一方、アジアに目を向けると、中国が高温ガス炉を運転中であり、2029年稼働予定のトリウム溶融塩炉の建設も進められている。

日本においても、強力な政策支援と広範な公的教育の普及が伴えば、2040年までに次世代原子力技術を導入し、2040年までの原子力発電比率の目標達成へのギャップを埋めることができると考えられる。

サステナビリティと投資上のトレードオフにおける検討事項

原子炉は、小型・モジュール型であっても、典型的な「ロックイン資産」である。今行われる投資判断は、今後50年にわたる日本の電源構成と排出特性を左右することになる。

技術的な選択の違いにかかわらず、自社のエネルギー転換を検討する企業にとって、原子力発電は一定のエネルギー供給の安定性を提供する選択肢である。

図表3:第4世代原子炉技術の比較(Codo作成)

第4世代の増殖炉は廃棄物削減の可能性を、トリウム炉は兵器転用リスク低減の可能性を、高温ガス炉は高い安全性を伴う産業用熱供給の可能性を示している。投資制約、安定したエネルギー供給を必要とする事業特性、あるいは高品質な熱需要により原子力発電に依存せざるを得ない企業にとって、これらの新技術は、日本国内で実用化が進めば現実的な代替案となり得る。

太陽光発電

日本における太陽光発電の現状

日本は数十年にわたり分散型太陽光発電に多額の投資を行ってきた。その結果、2023年時点で約87GWの設備容量が、建物の屋根、空き地、インフラ用地など、比較的導入しやすい立地に設置されている。

今後さらなる拡大を図るためには、優先度の高い立地に続く「第二段階」の用地開発が必要となる。その実現に向けては、太陽光発電技術の進展や設置手法に関するイノベーションが重要な役割を果たす。

日本は2040年までに目標の150GW展開を達成できるか

結論から言えば、不可能ではないが、イノベーションを最大限に活用するためには、大幅な取り組みの強化が必要である。

日本には大きな太陽光ポテンシャルが存在する一方、設置には送電・蓄電インフラの整備、土地利用と景観変化に対する地域の理解、技術的適合性といった制約が伴う。設備容量を増やすためには、これらの制約の少なくともひとつを緩和する必要がある。

図表4:太陽光発電設置の考慮事項(Codo作成)

蓄電池(BESS)と組み合わせた太陽光システムは、地域条件に左右されない安定供給を可能にする。BESS自体も重要な技術分野であるが、本記事では詳細を割愛する。

次世代型の太陽光技術にはどのようなものがあるか

本記事では、数ある新技術の中から、ペロブスカイト、メガソーラー、営農型太陽光(ソーラーシェアリング)の3種類に焦点を当てる。

  • ペロブスカイト太陽電池
    錫使用量を抑え、製造時のCO₂排出量を約16%削減できる。軽量かつ柔軟で、壁面や従来不適とされた屋根への設置が可能である。
  • メガソーラー
    出力1MW超の大規模太陽光発電を指す。集約立地によりインフラや保守の効率化が可能である一方、建設設計によっては、地域規模・地球規模の生態系に深刻な影響を及ぼすことがある。例えば、森林地への置き換えを伴う場合、生態系破壊や土砂災害、野生動物の移動などが引き起こされる可能性がある。
  • 営農型太陽光(ソーラーシェアリング)
    農地上部または周辺にパネルを設置し、農業と再生可能エネルギーの発電を両立させる方式である。日本でも複数の設計が実用化されており、一部はメガソーラー規模に分類される。農地転用への懸念はあるものの、農家、自治体、投資家に社会的・税制上の利益をもたらす側面がある。
サステナビリティと投資上のトレードオフにおける検討事項

日本政府はFIP制度を通じて太陽光発電を支援しており、自治体補助金やPPAも長期的な価格安定と投資利益を後押ししているが、課題となるのは、適切な立地選定とステークホルダーとの合意形成である。

太陽光発電は設置場所の選定によって、環境影響を大きく左右する。未開発地(グリーンフィールド)への発電機設置は、地域生態系の攪乱、地域の局所気候の変化、クマやイノシシといった野生動物の移動、自然災害リスクの増加を招く可能性がある。そのため、太陽光発電の新規導入は都市部、既存インフラ用地、ブラウンフィールド、低生産性農地などを優先すべきである。

特に営農型太陽光発電は、環境と社会の双方に利益をもたらす選択肢として注目されている。作物選定と設計次第では、作物が成長するのに十分な日光を確保する設計にすることで、日本の主食作物である米の生産とも両立可能であることが研究によって実証されている。太陽光発電と農業生産を統合することで、都市部の企業は金銭的な対価にとどまらず、農業の継続的な発展を支援する形で地方コミュニティに貢献することが可能となる。

以下の表では、太陽光発電における新技術について、立地条件を含むサステナビリティ上の主な論点を比較している。

図表5:新技術とサステナビリティ上の懸念(Codo作成)

太陽光発電の設計においては、開発段階だけでなく、廃棄・回収段階までを含めた検討が不可欠で、例えばパネルや関連インフラは、有害物質の漏出がないか継続的に監視される必要がある。適切な廃棄管理が行われない場合、重金属やプラスチックによる周辺環境の汚染につながるおそれがある。

そのため企業は、リサイクル施設の有無を確認するとともに、将来的にパネルやケーブルを確実に回収・撤去できる設計を、開発初期段階から織り込むべきである。

グリッドか、グリーンフィールドか:Codoの視点

すべての企業は現実性を確保しつつ、野心的なネットゼロ・ロードマップを設計するうえで、固有の課題に直面している。しかし業種を問わず、信頼性の高い低炭素エネルギーを十分に確保することは共通の前提条件である。

2040年までに日本の系統電力の排出係数は改善すると見込まれるものの、目標とする排出水準に到達する可能性は低い。そのため企業は、オンサイト・オフサイト双方の再生可能エネルギー投資と、事業モデル転換への投資の適切なバランスを取ることを迫られている。

企業がどの程度厳格な脱炭素コミットメントを掲げているか、スコープ1とスコープ2の排出構造、さらには事業モデルの特性によって最適な選択は異なる。RE100認証を目指す企業にとっては、日本の系統電力のみでは要件を満たせず、再生可能エネルギー開発を通じた垂直統合が必要となるが、鉄鋼業のように高温熱需要が大きい産業では、新型原子炉による冷却系からの熱併給が選択肢となる可能性がある。さらに、Co2削減にとどまらないサステナビリティ目標を掲げる企業にとって、再生可能エネルギー投資は社会的価値創出の手段ともなり得る。

未開発地での再生可能エネルギー開発は、重大な環境影響を引き起こす可能性がある。一方で、営農型太陽光は、現時点ではエネルギー供給と環境・社会的価値の両立という観点から、最もバランスの取れた選択肢の一つと考えられる。営農型太陽光は、発電量の確保という課題に対応するだけでなく、社会福祉の向上や遊休農地の活用といった社会的課題の解決にも資する点が特徴である。理想的な導入形態は、自治体や地域社会の強固な支援を前提とした官民連携の取り組みである。税収や電力販売による収益は、土地所有者や地方自治体を支えるとともに、地方に戻る若い世代にとっての安定した収入源を創出する可能性がある。

最適な選択肢は、貴社特有のニーズによって異なります。Codo Advisoryでは、企業ごとの移行ロードマップに即した最適な解決策の特定を支援しています。移行計画策定支援サービスの詳細はこちらをご覧いただき、コンサルタントとのご相談をご検討ください。


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