企業の都市環境影響評価:日本企業の対応状況は?

2024年10月に発表されたWorld Benchmarking Alliance(WBA)の初めてのアーバン・ベンチマークでは、都市のニーズへの対応状況について、影響力のある企業300社が評価された。今回のCodo Insightsでは、ベンチマークの主な調査結果をまとめるとともに、日本企業のパフォーマンスを分析する。

世界的な非営利団体である World Benchmarking Alliance(WBA)は、企業のSDGs達成状況を評価するためのベンチマーク(評価指標)の開発を行っており、世界の主要2000社に対する評価をランキング形式で公開している。例えば、気候変動対策に関する評価手法のひとつとして、ADEMECDPが共同開発した企業の脱炭素移行計画の測定手法であるACTが採用されている。企業にとって、これらのベンチマークはグローバル基準に対する自社の取り組みを測定し、改善点を明確にする機会となる。高評価は投資家やステークホルダーとの信頼構築に繋がり、ESG目標への透明性とコミットメントを示す。持続可能性が重要視される今、WBAの結果は企業の成長と変革を促す貴重なツールである。

アーバン・ベンチマークは、ESGの観点から都市環境への企業の影響を評価する初のベンチマークである。人権、気候への影響、社会的公平性など、都市の持続可能性に関わる要素が網羅されている。現在、世界人口の55%が都市部に居住していることを踏まえ、この評価は未来の都市づくりにおける企業の役割を明らかにするものである。

WBAは評価対象となった300社から以下の5つの主要な傾向を特定した:

  1. 都市の汚染削減への取り組みの欠如: 汚染が社会に与える深刻な影響にもかかわらず、企業の取り組みは不十分である。例えば、空気汚染の削減を報告した企業は300社中わずか9社である。空気汚染は2023年における約800万人の死因であるとされているにも関わらず、企業の対応は遅れている。騒音汚染においても、建設や輸送業界のうち約13%の企業が対策を講じるに留まっており、聴力低下、睡眠障害、心血管疾患、精神衛生などの問題との関連性が懸念されている。
  2. コスト負担能力の軽視: 交通機関や公共施設などの都市サービスの民営化によりコストが増大し、生活に必要不可欠なサービスの利用が困難となる人が増加している。ベンチマークでは、75%の企業がコスト負担能力の指標でゼロ点を記録している。この傾向は、大手不動産企業による住宅市場の支配と相まって、低所得層の都市住民が基本的なサービスへのアクセスを失うリスクを高めている。
  3. 主なステークホルダーとの連携不足: ベンチマークで評価された企業は6億9200万人以上にサービスを提供しているが、地元コミュニティを主要なステークホルダーとして認識している企業は半数以下である。特に、世界人口の7人に1人が住むスラムのような非公式居住地をステークホルダーとして認識している企業は1社もなかった。このような双方向コミュニケーションの欠如は、実際のニーズに応じた解決策を講じるための貴重なインサイトを見逃すことにつながる。
  4. 気候変動対策に対するコミットメントの低さ: 都市が世界のCO2排出量の70%を占めているにもかかわらず、温室効果ガスの排出量を開示している企業は半数以下である。クライメート・ポジティブな行動に対する説明責任、及びコミットメントの欠如が明らかである。
  5. 災害対応能力の不足:気候変動により自然災害の頻度と影響が増大している昨今、都市システムのレジリエンスが重要である。しかし、災害に対して脆弱な地域で事業を展開する企業の半数以上がリスク評価を実施しておらず、緊急時対応計画を開示していない。これらのサービスが復旧活動に重要であるにも関わらずこのような状況なのだ。

ベンチマークで最高得点を記録した企業はイタリアのEnelで47.8/100であった。また、300社全体の平均スコアは11.3/100と低く、30点以上を記録した企業は11社のみであった。

日本企業15社の平均スコアは15.7/100であり、中国企業(6.0/100)や韓国企業(13.0/100)を上回った。日本企業の順位は以下の通りだ。

ランク会社名スコア
#231大成建設株式会社27.0/100
#26大和ハウス工業株式会社26.2/100
#35三菱地所株式会社25.3/100
#43株式会社大林組23.9/100
#45東京電力ホールディングス株式会社23.6/100
#53東急不動産株式会社22.0/100
#79三井不動産株式会社18.3/100
#85鹿島建設株式会社17.7/100
#92東京ガス株式会社16.9/100
#109関西電力株式会社14.6/100
#159住友不動産株式会社9.3/100
#183株式会社日建設計4.9/100
#205東京水道株式会社2.2/100
#208大阪市高速電気軌道株式会社2.0/100
#217東京地下鉄株式会社1.3/100

日本企業が平均以上のスコアを獲得したインジケーターには、人権やコンプライアンスに関連するコア・ソーシャル・インジケーターがある。

他方で、全体を通じて依然として多くの課題が残されている。

  • インジケーター別でみると、日本企業15社すべてがスコアを獲得したインジケーターは1つもなかった。半数以上の企業がスコアを獲得したインジケーターは14項目であり、これに対し72項目以上のインジケーターはすべての日本企業が未達成であった。
  • 日本は自然災害が多発する国であるにもかかわらず、「自然災害リスクの削減」カテゴリのスコアは極めて低い結果となった。どの企業もリスク評価を行っておらず、災害対策基準の遵守も行っていないとされている。
  • 「気候変動に適応した都市づくりとレジリエンス」カテゴリのスコアは、一定の評価につながっている。これは日本企業の過半数がスコープ1、2、3のGHG排出量を開示し、削減目標を設定していることが関係しているだろう。
  • 前述のとおり、コア・ソーシャル・インジケーターで比較的よい結果を残した日本企業だが、当該インジケーターの中の指標の1つである「生活賃金」については、定義を明示した企業や残業の支払いについて声明を発表した企業は1社もないという結果となった。

本ベンチマークデータのレビューに基づき、日本企業への提言は以下の3点である。

1) 健全な都市環境の促進: 日本企業は「健全な都市」カテゴリにおいて、空気の質、騒音公害、公共スペースの評価が低かった。日本の土地の28.3%が公有地2であることを踏まえ、建設業や不動産業に従事する企業は、公有地に投資することが推奨される。安全でアクセス可能な公共空間の創出と維持を推進することはWBAスコアの向上にもつながるだろう。

2) ステークホルダー・エンゲージメントの強化: 日本企業は、特に脆弱なコミュニティに関連する社会問題への取り組みをより積極的に行う必要がある。透明性のある人権方針、積極的なステークホルダー・エンゲージメント、生活賃金や残業に関する情報開示は、ESGの「S」の分野での進展に不可欠である。

3) 英語での情報開示の強化:  英語での情報開示が限定的であることが、ベンチマークスコアおよび国際的な認知度に悪影響を及ぼしている。たとえば、大阪メトロは安全評価を日本語で定期的に公表している3が、英語での開示がないためにスコアが未達成となっている。このような情報をバイリンガル化することは、ランキング向上だけでなく国際的な投資家の関心を引き付ける上でも重要である。

WBAアーバン・ベンチマークでは、日本企業がアジア地域の他企業よりやや良い成績を収めたものの、都市の持続可能性の課題に対応する上で依然として多くの改善の余地があることを明らかにしている。日本企業は、公害削減、ステークホルダー・エンゲージメント、透明性のあるコミュニケーションに優先して取り組むことで、よりレジリエントで包括的かつ持続可能な都市の構築を目指すべきである。これらの取り組みは、WBAスコアを向上させるだけでなく、都市住民の持続可能な未来に向けたグローバルな動きに貢献することにつながる。

Codo Advisoryでは、持続可能性コンサルティングを専門とし、企業がWBAスコアを向上させるためのサポートを提供しています。包括的なESG戦略の構築から透明性やステークホルダー・エンゲージメントの強化まで、アーバン・ベンチマークで明らかになった課題の解決に向けたご支援が可能です。ベンチマークで指摘された特定の懸念事項に対応したい、またはパフォーマンスを向上させたいとお考えの企業は、ぜひお気軽にお問い合わせください。


  1. ウェブ版の評価では、大成建設のガバナンスおよび戦略行動に関するスコアは20.8/100とされ、大和ハウスグループと同じ世界ランキング(26位)となっている。しかし、データシートでは25/100と評価されており、本記事ではデータシートのスコアを採用することで、大成建設を23位と位置付けた。 ↩︎
  2. https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001566452.pdf ↩︎
  3. https://www.osakametro.co.jp/safety/safety_report/ ↩︎

作者


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