
モルガン・ベノア | サステナビリティ・コンサルタント
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2023年、世界で53.5億人が合計305億台のデジタルデバイスを使用-1人あたり平均で約6台のデバイスを保有―していた。デジタル技術は今や私たちの日常に不可欠な存在であり、仕事の進め方やコミュニケーションのあり方、さらには世界との関わり方までも大きく変えている。その中でも人工知能(AI)の存在感は急速に高まっている。AIは産業界を変革し、新たな可能性を切り開いている一方で、AIの影響力が拡大するにつれ、その環境への負荷も増大しているのが現状だ。こうした背景から、「AIの環境への影響は最終的にプラスなのか、それともマイナスなのか?」という重要な問いが、今まさに浮上している。
AIとデジタル技術の利用拡大
AIは製造業や物流、ヘルスケア、エンターテイメントなど、多岐にわたる産業に急速に浸透している。多くの企業はAIを活用して業務を計画・最適化し、エネルギーやコスト、リソースの削減を行っている。以下は、公表されているAIによるエネルギー使用量の削減事例である:
- AIは単独でも商業ビルのエネルギー消費と炭素排出量を8%から19%削減できる可能性があるが、低炭素電力源の導入やエネルギー政策と組み合わせることで、さらに大幅な削減が期待できるとされる。
- 楽天モバイルは、ネットワークの消費電力を25%削減できるAIモデルを開発した。
- 三菱UFJは、エネルギー消費を可視化し、施設ごとに最適な省エネ対策を提案するAI搭載サービス「Enneteye」を、全国の200施設で導入。一年間の試験導入の結果、冬季の電力消費量を9%、夏季には7%削減することに成功している。
環境の観点から見ると、AIはすでに汚染の監視や、生物多様性の状況を把握、気候現象の予測などの分野でも活用されている。このような取り組みはAIがパターンを検出し、研究者にデータを提供することで、環境保全にプラスの影響をもたらす取り組みを支援している事例だ。
一方、現在の「AIブーム」と呼ばれる時代には、ChatGPT、DALL-E、Stable Diffusion、Midjourneyといった2022年に初めてリリースされたAIモデルが、より幅広い層の人々にAI技術を日常や仕事で活用するきっかけをもたらした。ボストン・コンサルティング・グループの調査によると、2024年には世界の従業員の43%が少なくとも週に1回AIモデルを使用しており、役員レベルではその割合が82%に達していると報告されている。同じ調査で、日本の回答者はAIの結果に対して最も納得しておらず、不安を感じる割合も最も高いことが明らかになっている。さらに、日本の従業員がAIを利用する割合は世界平均よりも低く、従業員向けのトレーニング不足がその一因とされている。
AIは環境にとって脅威か、それとも恩恵か?
AIの環境コストは複雑である。AIが世界全体のエネルギー消費に占める割合はわずか0.03%と推定されているが、この数字はAIが日常ソフトウェアに組み込まれるにつれて(直近の事例ではMicrosoft CopilotがWindowsに自動的に搭載されるなど)、増大すると予測されている。Microsoftのプレジデントであるブラッド・スミス氏は、2024年Bloombergのインタビューで以下のように述べている:
“2020年、私たちは『カーボン・ムーンショット』と名付けた目標を掲げました。しかしこれは、AIが爆発的に普及する前のことです。もし我々が想定しているAIの拡大と電力需要を考えれば、2020年当時に目指していた“月”は5倍遠くなったと言っても過言ではありません。”[1]
このように、たとえAIモデルの最適化を進めたとしても、いわゆる「リバウンド効果」が残る課題を指摘した。つまり、技術が進歩しエネルギー効率が向上するにつれ、エネルギーの需要そのものが増えてしまい、環境へのメリットが相殺されてしまうのだ。このパターンは3Gから4Gへの移行でも見られたように、より高速・高性能なモデルを求める競争が、昨今のAI分野でも起こっているのだ。IEAの推計によると、AI業界の電力消費量は2023年から2026年にかけて10倍増加する見込みだという。

(出典: “Electricity 2024 Analysis and forecast to 2026” – IEA)
環境への影響は電力消費だけではない。デジタルデバイスやデータセンターの製造にはインジウム、ガリウム、タンタルといった希少金属が必要とされ、これらの金属は枯渇が懸念されている。こうした素材の採掘には環境的・社会的に大きなリスクが伴うことも多い。さらに、AIインフラの稼働には大量の水資源も必要だ。GPT-3のような大型モデルの学習には、サーバー冷却や必要電力を再生可能エネルギーで賄うための発電過程で70万リットル以上の水が消費されている。
手薄なサステナブルAIを取り巻く規制
各国の政策立案者はAI規制を始めだした一方で、AIが与える環境への懸念はいまだ二次的だ。
世界初の国際的な取り組みとなる広島AIプロセスは、2023年5月に日本のG7議長国として発表され、「安全・安心・信頼できるAI」を促進することを目的としており、AIライフサイクル全体でステークホルダーを導く12の原則を定めている。原則9は「グローバルな利益」のためにAIを開発することを奨励し、気候変動などの課題に取り組むことを示している。しかし、このプロセスは、これらの目的のために使用されるAIツールの開発に伴う環境への影響の軽減については言及していない。
2024年に発効した「欧州AI規制法(EU AI Act)」は、プライバシーや透明性、安全性に重点を置いている。広島AIプロセスよりも一歩進んで、企業に対して自主的なエコフレンドリーなAI実践の採用を奨励しているが、強制力のある規定は含まれていない。また、同法ではエネルギー消費に焦点を当てているものの、水資源の使用などその他の要素は考慮されていない。
日本においても、総務省と経済産業省が公開した「AI事業者ガイドライン」(2024)にて環境への言及はあるものの、詳細には踏み込んでいない。同年にデジタル庁が公表した「テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック」にても、優先事項はプライバシーと公平な利用であり、サステナビリティは前面に出ていない。
世界各国の持続可能なAIの利用についての議論も、現在は検討の対象から外れているようだ。2025年2月にパリで行われたAIサミットでは、英米が「人類と地球のための包摂的で持続可能なAIに関する声明」への文書に署名をしなかった。一方で、フランス、中国、インドなどの60か国はこれに署名をしている。
AIサミットと並行して「Coalition for Sustainable AI(サステナブルAI連合)」が100社以上の企業と14か国、7つの国際機関の支援を受けて立ち上げられた。当連合は、AIの環境への影響を評価する手法の開発の提唱や、AIのインフラとソフトウェアをグローバルな環境コミットメントに沿って構築・維持することを目指すなど、“よりグリーンなAI”を推進する動きの萌芽となっていると言えるだろう。
今後数年のうちに、各国でより拘束力のあるサステナビリティガイドラインや規制が整備される可能性があるが、現時点では強力な環境規制がないため、企業にとっては規制の追いつきを待つのか、それとも先んじてデジタルとAIの戦略にサステナビリティを組み込むのかの選択が迫られていると言えるだろう。後者の場合は、企業が将来の規制対応に備えるだけでなく、サステナビリティ領域での第一人者としての地位を確立することができるのではないだろうか。
企業がサステナブルなAIの活用を推進するには?
デジタルトランスフォーメーション(DX)が促進する時代において、デジタル技術の利用を見直すことは一見すると逆行しているように見えるかもしれないが、AIやデジタルデバイスの利用に関連する環境負荷を低減するために、企業が取れる三つのステップがある:
デジタル技術による排出量を計算する
まず考慮すべきなのは、現状の把握である。現在、企業が算出するScope 3排出量の中でインターネットやAIの使用は「購入した製品・サービス」に含まれ、二次データに依存しているため、AI特有の影響を切り分けることが困難である。それゆえ、企業はまず、高い精度を得るために地域ごとのデータを収集し、次にコンピュータやスマートフォン、ネットワークの利用など、すべてのデバイスをScope 3の計算に含める必要がある。
デジタル・フットプリントの重要性を認識し、すべての従業員に対してデジタル責任を推進する
デジタル技術が環境に与える影響の半分以上は、ユーザーの使用するデバイスに起因すると言われている。つまり、不要なデバイスの使用を減らし、ハードウェアの寿命を延ばすことが重要だ。サステナブルなデジタル技術の利用に関する方針がない企業は、AIだけでなく、あらゆるデジタル技術を対象にしたデジタルサステナビリティ計画を策定し、社員一人一人に意識的なテクノロジーの利用を促す取り組みを始めることが推奨される。
AIの必要性の再考
たとえ些細な作業であっても、AIに任せれば時間短縮(や面倒な作業からの解放)ができるかもしれない。しかし、すべての作業でAIが必要というわけではない。2023年、Alphabet (Google)は、AI生成された回答は従来のGoogle検索よりも10倍のエネルギーを消費すると報告している。つまり、AIの利用は企業のScope3排出量に大きな追加的負荷となる可能性がある。場合によっては、シンプルな手段(紙を使うなど)の方がエネルギー効率が高いこともある。
まとめ
AIは発展と環境問題の解決に寄与する可能性を秘めているもの、万能薬とは言えない。AIモデルが高性能化・普及するほど利用も急増する。その結果、エネルギー効率化の効果を相殺しかねない「リバウンド効果」という根本的な課題は、依然として残る。これは過去の技術発展でも繰り返されてきた現象であり、企業や政策立案者が意図的に対策を講じなければ、同じ道をたどる恐れがある。
技術だけでは環境問題の解決は行えない。だからこそ、企業はデジタル消費のあり方を再考し、あらゆるタスクにAIを導入すべきかどうかを慎重に見極め、イノベーションと同時にサステナビリティを重視する姿勢が求められる。こうした意識的で情報に基づいた意思決定を行うことで、AIがもたらす恩恵が環境へのコストを上回るようにすることが可能となる。
デジタル技術の環境影響についてさらに理解を深めたい方は、「Digital Collage(デジタル・コラージュ)」ワークショップへの参加を推奨する。当ワークショップは主要な研究の知見をもとに、カード形式でデジタルサステナビリティの複雑な問題をわかりやすく整理し、気づきと実践的なアクションを促すよう設計されている。
詳しくは
- Engineering Responsible Ai: foundations for environmentally sustainable AI – National Engineering Policy Centre(英語のみ)
- EU Artificial Intelligence Act (英語のみ)
- AI技術による環境への影響〜二酸化炭素排出量の削減とエネルギー効率の改善〜 – World Economic Forum
[1] 2020年、マイクロソフトは2030年までにカーボンネガティブを達成し、2050年までに1975年の創業以来、直接排出および電力消費を通じて排出してきたすべての二酸化炭素を除去することを約束した。しかし、マイクロソフトの2024年のサステナビリティレポートによると、スコープ1、2、3全体の排出量は2020年度の基準値と比べて29.1%増加していることが明らかとなった。

